第6話序章6
「因みに、余計な情報かもしれませんが、高須には強姦の他にもう1つ前(歴)がありました。強姦と比較すりゃ大した『前』じゃないですが、横浜で学生時代を送っていた、丁度二十歳過ぎた頃に、強制猥褻絡みで横浜中央署に逮捕勾留されてます。本人は『店で女性が自分の方にいきなり倒れ込んで来たので、支えようとしたら胸を掴む形になっただけだ』と無実を主張して一切否認したままでしたが、その時もオヤジが動いて、勾留後に釈放されてます。更に、検察はまだ親告罪(作者注・2017年7月より非親告罪へ法改正済み)だったんで、被害女性との示談が済んだことによる告訴取り下げで起訴はしてません。相手は、こう言っちゃなんですが、一般人じゃなくホステスだった上、歓楽街でのイザコザ程度だった様で、事件そのものはそれほど悪質だった訳でもない。そもそもこのケースでは、被害者との示談が済んだとは言え、本人が故意を完全に否認している以上、当初から起訴は微妙なケースだったみたいですね。とは言え、強姦の時同様、親父の威光を笠に着て誤魔化したとも取れる。というより、こういう経験が後の強姦につながったのかもしれません」
吉村はそこまでごちゃごちゃと語ったが、余計な時間を使ったと後悔したのか、それ以上先については黙った。
「まあ、やっちまったことは、故意であったとしても多少酒でも飲んでりゃ、こう言っちゃ何だが誰にでも起こり得るレベルの話だから……。親父の権力利用して訴追されなかったことを含めても、今回の事件の重大性との比較からして、余り考慮しなくて良いレベルの話だろ? 性犯罪という括りでは関連性はあるのだろうし、お前の言う通り、金で何でも解決するという考えの切っ掛けになったかもしれんが……」
西田もまた、吉村からの新情報に、現時点ではそれ程価値を見出してはいなかった。吉村自身も「念の為」程度の意識の上、過剰に喋り過ぎたという認識だったのだから、特に西田の感想に何か反論するということも無かった。元上司の発言に何も反応せず、そのまま話を元の流れに戻す。
「じゃあ本筋の最近の強姦の話に戻します。取り敢えず強姦と児童買春の余罪がある可能性を考慮して、高須の周辺を洗ったんですが、通話履歴などから女子高生数人との援交の痕跡は見えたものの、これについては女子高生側が認めないことにはどうにもなりませんからね、密室の話は……。強姦の余罪についても、こっちは揉み消すとかそういう以前に、警察側 《ウチ》で認識出来るような話は全く出て来ませんでした。まあ元々それなりにモテて、独身貴族を謳歌していた男が、その1、2年前から風俗通いに援交とトチ狂った様な性生活を送り始めただけで、20年前の強制猥褻があったとしても、強姦もたまたまだったのかもしれませんが……。そうであるなら、常習性のある鬼畜を野放しということにならなかったのが、不幸中の幸いなのかもしれません。ただ、釈放された後も高須から任意で色々聞いてはいたんですけど、我々が懸命に捜査していることを知ると、『そいつはわざわざご苦労さまです』とニヤニヤしていたらしいですわ、部下の話では。のうのうとそれまで通りの生活を送っていた上に、必死な俺らが馬鹿にされてた訳で頭に来ますよ、ホント!」
吉村は吐き捨て、その上苦虫を噛み潰した様な顔付きになった。
「しかし、それが女子高生に対するレイプどころか、今度は10歳の女の子を殺害とは、色々急にタガが外れ過ぎだろ!」
西田は吉村の気持ちを理解しつつも、呆れというより、どうにも納得が行かずに首を何度か
「ホントそこなんですよねえ……。竹下さんの情報通り、自宅ガサ入れでも児童ポルノなんかは出てきませんでした。勿論、インターネットの履歴等でも、そういうサイトにアクセスした形跡はありません。本人も犯行そのものと児童性愛について完全に否定してます。遺体にはレイプの痕跡や性器への傷害は一切はなく、着衣にも乱れこそ多少ありましたが、少なくとも手荒な扱いを受ける前に殺害されたのは間違いありません。性的いたずら目的と言うよりは、実際には殺害そのものに興奮したのかもしれませんが……。精液は女児のズボンの部分に付着してました。高須の皮膚片などの他の遺留物も、女児の身体や着衣、現場からは発見されていません。犯行時には手袋などを着用していた可能性もあって、犯人のものと思われる遺留物は、精液以外は女児からは見つからなかったですね。」
吉村は立て続けに捜査情報だけ伝えたが、殺害された女児のことを思ったか、最後には唇を噛んでいた。
「アリバイについてだけど、証明できない間について本人は何と言ってるんだ?」
「何でも、午後3時前には、特に自分が会社でやることもないので、大通りのバスセンターの近くにある会社ビルから早退したそうです。それで、近くのコンビニで缶ビール買って
「河川敷沿いの道路から直接タクシーに乗ってそこまで移動したんじゃないか?」
「だったら、家まで戻ったタクシーについて証言した様に、そこも確認するように普通我々に求めて来るでしょ? それに、豊平川の近くから札幌駅近くまで行って、わざわざタクシーを乗り換えるメリットがわからない。河川敷から直接家まで乗るに決まってるでしょ?」
吉村の反論はもっともだったが、西田自身もある意味分かり切ったことをわざわざ聞いていた自覚があった。
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