第33話 見舞いという名の

 病人の猫実好和のもとへ、見舞いの名の下に集まった者達。

 とりあえず彼らは一つのテーブルを囲んだ。


 くしくも男女三対三。

 その事実は、秋多のテンションを上げない訳がなかった。


「みなさん!晩御飯は食べましたか!?」

 秋多が意味ありげに問いかける。


「食うてへんけど?」

 アミ店長が普通に答える。


 秋多はニヤリとした。

「僕らもです!せっかくなんで、皆さんご一緒しませんか!?」


「ハァ......。まったくコイツは......」

 隣で呆れる柴井。


「いったいお前は何しに来たんだ......」

 風邪で怠そうにしながら嘆く猫実。


「え...」

「ひいぃぃぃ」

 ナルは全く乗り気ない表情を浮かべ、もずきゅんは怯えるばかり。

 しかし......


「ほんだらウチが腕振るったろか!」

 アミ店長がノリノリで応える。

 しかも、自分が料理して皆に振る舞おうと言うのである。

「さくっと作ったるで!」


「ちょっと店長!食材あるんですか?」

 ナルが指摘する。


「だいじょーぶや。実はな......あらかじめその手配をしとったんや」


「え?どういう事ですか?」

「それはすぐわかるで!」


 その時である。


 ドンドンドン


 ベランダから窓を叩く音が聞こえた。

 ここは二階である。


「な、なんでベランダから...?」

 猫実好和はギョッとして窓の方へ向く。


「今すぐ行くで〜」

 スッと立ち上がったアミ店長はそそくさと窓へ駆け寄ると、カーテンをシャッと開けた。


 男子勢は仰天した。

 なんと、魔法の箒に跨った黒いワンピース姿の女子がフワフワと浮かんでいたからである。


 ナルは困り顔で頭を抱え呟く。

「あの子はまた目立つことを......」


 アミ店長が窓をガラッと開けると、

「みんなこんばんは〜!私も見舞いに来たよ〜猫実くん!」

 ベランダに着陸したハヤオンは可憐に微笑みかけた。


「ハヤオン!やっと来たかいな!」

「すいません店長〜遅くなってしまいましたぁ!」


「かまへんかまへん!とりあえず中に入りいや」

「はーい!お邪魔しま〜す」


 ハヤオンは二階の窓からしれっと入室した。 

「あっ、猫実くん。靴は玄関に置いといた方がいいかな?それとも魔法の風呂敷に包んでおいた方がいいかな?」


「あっ、えっと、どっちでも大丈夫ですけど......ま、魔法の風呂敷って...何ですか??」


「ん?これだよ??」

 ハヤオンは何処から折り畳まれた一枚の布を取り出すと、それを床にファサァっと広げ、

「は〜い...ハイっ!」

 手をかざして掛け声を上げた。

 次の瞬間、


 ボゥンッ!

 

 なんと、野菜や肉やらの食材が布の上に突如その姿を現した!


「店長〜これでいいんですよね?」

 ハヤオンはアミ店長に確認する。


「オーケー牧場や!」

 アミ店長はグーサインにウインクした。


 秋多と柴井は、ハヤオンの披露する一連の不可思議な現象にポカーンとする。

「な、なんなんだ...?」

「手品?なのか?」


 猫実好和はもはやなす術もなく茫然としながら力無く呟いた。

「俺...病人なんだけど......」

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