第32話 ダブルあーん

「ワタシ!?」

 何のことだかわからないナル。


「せやから次はナルが『あーん』やるんや!」

「わ、ワタシが!?」


 アミ店長はすっくと立ち上がると、無理矢理ナルを引っ張ってきて猫実好和の隣にピッタリくっつけた。

「さあナル!いてもうたれや!」


「い、いてもうたるって」

 困惑するツンデレネコ娘。


 さらにアミ店長はまくしたてる。

「ほな、もずきゅんも行こか!」


 ビシッと指をさされる人見知りネコ娘。

「はぇ???」

 もずきゅんは店長の無茶振りに目を見開いて固まる。


 そんな彼女をアミ店長は無理矢理引っ張ってきて猫実好和の隣にピッタリくっつけた。

「さあもずきゅん!いてもうたれや!」


「そ、そそそそんなこと言われたってぇ!」

 困惑を超えて恐怖の色さえ浮かべるもずきゅん。


 さて、まさしく両手に華となった猫実好和。

「あ、あの、なんなんすかこれ......」

 誰よりも戸惑っていたのは彼だった。


 しかし、アミ店長にそんな事はおかまいナッシング。

「ほな、当店名物!『ダブルあーん』や!」


「そんな名物ないですっ!」

 赤面して叫ぶナル。


「はわわわわっ!」

 もはや形容しがたい顔で言葉にならないもずきゅん。


 謎の緊張感に包まれる三人。

 してやったりな笑みを浮かべるアミ店長。


 いよいよ究極兵器『ダブルあーん』がブッ放されるのか!?

 その時、


 ピンポーン


 インターフォンが鳴った。


「誰か来たで?猫実くん」

「は、はい。こんな時間に誰だろ」


「わ、ワタシが出てくるわ!」

 ここぞとばかりにナルが逃げるように飛び出した。


「はーい!」

 ナルがパタパタと玄関に向かうと、扉の向こうから声が上がる。


「おーい!ネコー!大丈夫かー!」

「見舞いに来たぞー!」


 その声の様子からナルは、

「ん?猫実くんの友達かしら?」

 と思い、ドアをガチャッと開けた。

「はーい」


「あれ?」

「女性?」


 訪問者は秋多と柴井だった。

 彼らも猫実好和の見舞いに訪れたのである。


「あ、あの、おれたち、猫実くんの友人で、彼の見舞いに来たんですが......」

 思わぬ美少女の登場に秋多がしどろもどろ言った。


 柴井も同様に面食らってはいたが、勘の良い彼はナルの顔を見てすぐに気づく。

「......あっ、ひょっとして猫カフェの方ですか?」


 記憶力の良いナルもすぐにわずかな記憶から気づく。

「貴方達は確か......一度、うちの店に来てた猫実くんのお友達ね?」


「はい、そうです。自分は柴井です。こっちは......」

「秋多です!!貴女は、ナルさんですよね!?」

 急に秋多が興奮気味に声を上げた。


「えっ、あ、はい。ワタシはナルです」

 ナルはやや引き気味に返す。


 秋多の鼻息を見た柴井は彼を手で抑えながら訊ねる。

「オレ達は帰った方が良さそうですかね?」


「え?そんな事ないですよ?ただ、ワタシ以外にも二人来ていますけど...」


「じゃあおれたちもお邪魔します!!」

 秋多は柴井の手を払いのけてドタドタと玄関を上がった。

 この時、秋多の胸にはいつの日かのリベンジの炎が燃え上がっていた。

 そう。それはあの日の合コン。


 秋田は思う。

ーーーあの日は不本意な形で終わったが、これは天佑!神がおれに与え給うたチャンス!しかもあの日いなかったナルちゃんがいる!今夜は......見舞いコンパだ!!ーーー


 秋多はどこまでもバカだった。

 

「おいネコ!見舞いに来てやったぞ!」

 鼻息荒い秋多が猛然と部屋の扉をバーンと開けた。

 その瞬間...

「!」

 秋多は絶句する。


 なぜなら、彼の目に映ったのは......


「はい。あーん」

「あ、あああ、あーん」


 二人のネコ娘に、猫実好和が今まさにダブルあーん攻撃に被弾している姿だったから!


「あ、秋多??」

 両手に華の猫実好和は新たな来訪者を見上げた。


 秋多はえも言われぬ怒りにワナワナと身を震わせ始める。

「猫実好和......きさま......この......裏切り者がぁ〜!!!」


「なんやなんや??」

 キョトンとするアミ店長。


「ひ、ひいぃぃぃ!!」

 びくんと怯えるもずきゅん。


「な、なんなの...?」

 理解不能で引き気味のナル。


「おれもまぜろ〜!!!」

 秋多は爆発し、猫実のもとへ飛び込もうとするが、

「おい!」

 一喝するように後ろから柴井が彼の頭をパーンと叩いた。

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