本編のタイトル→ゴールデンウィークの過ごし方
僕等の関係が変化したことにより、ルールを作らないとダメだとお互いで取り決めを考えた。
ゴールデンウィーク二日目に僕達は眠気眼を擦りお互いで驚きあった。
寝起きで隣を見ると他人がいたのだ。急になれない環境だからこそ当然の反応だとお思う。カナは寝癖を手で直して僕は二度寝に走った。
ぺちぺちとほっぺたを優しく叩かれて起こされる。それからベットの中でルール決めの話が自然と出た。
会社に私情を持ち込むのは宜しくないと僕は思う。何よりその持ち込んだ私情が邪魔をして業務が滞ると全てに影響を与える。給料を貰う立場であるからこそ、そこは大切にしていきたい。生きるために仕事をする一面も存在するので社会とは上手く付き合っていかないと行けない。僕もなぁなぁで仕事をしてきた訳ではなく、真剣に取り組んできたつもりだ。
恋人の関係やその日の感情に左右されることは少なからず影響を与える。だからこそのルールを考えた。恋人とは言え、職場で手を繋いだり呼び名が特徴的だと場の空気を乱すことに繋がる。学校なら風紀員に呼び出されて厳重注意されるだろう。
だから、僕達は会社内では普通に今まで通り、カナは僕を先輩と呼び僕はカナを今井と呼ぶ。
メリハリを付けることで仕事もプライベートも充実した日々を過ごそうという算段である。上手くやっていくためにも必要な事だと僕が提案した。カナも理解がある様子で素直に首を縦に振る。
でも、その代わりプライベートではちゃんと名前で呼ぶ事と釘を刺された。これを僕等は恋人ルールと名付けた。
寝起きで色々と口にだして考えていたが疲れて結局は二度寝に落ち着く。
次に目を覚ました時には恋人ルールを決めた記憶がちゃんと残っていた。そう、隣を見ると可愛い後輩で恋人のカナが寝息を立ててぐっすりしていたのだ。その寝顔を見て僕は夢じゃないと今更実感する。仕事に関しては向き不向きが存在するから、相手を責める事は無いだろう。けれど、恋人として何か意見のすれ違いが発生したら話し合わないといけない。
何か合った時に考えれば良いことなので今は隣の子を眺めつつベットの下を綺麗にする手段に頭を悩ませる。恋人がけしからんアイテムを所持していた場合、相手はどう思うだろう。お互い学生でも無く良い大人と言える年齢ではある。
許容しよう。
否定するのは間違ってる。明らかに違法だったり今後の生活に影響があり相談が必要な物以外は許すことにしようと一人で決めた。
「おはよぉ~」
「カナ、おはよう。朝のテンションは低めだという事実が発覚した」
「えぇ~、流石に朝はこんなもんよ」
元気な返事や熱いやる気を普段感じるだけにギャップを感じた。そして、重いまぶたに負けたのか僕を抱きまくらの様にぎゅうっと両足で挟んで眠ろうとする。
「流石にこのまま寝たら昼過ぎになるよ。何か予定は無いの?」
「えぇー。無いよぉ。ゴールデンウィークだからって何も決めてないし」
納得だった。直前まで資格の勉強に明け暮れていた。
ん? 休みか……そういえば昨日の帰りの電車がいつもより人が多い事に気付いた。
休みという事は観光客が押し寄せてきているに違いない。ということは昨日の話題であがった水族館や東京タワーでさえ人が多くてまともに観光出来ない可能性さえあった。
そういう日だと再認識すると外出に対する意欲の低下と足が更に重くなる。都会に遊びに行くには絶好の機会だからこそ、普段より行きたくない。
結局のところ、平日は仕事で時間を潰し、休日は家から出るのが億劫となり引きこもる。これが原因で出会いに気付かなかった男が僕――西崎カオルという人間である。
休日は休む日で間違っていない気もしてきて自分を肯定することにした。一方、隣で眠さに負けて寝息を立て始めた彼女の肩を揺さぶる。
「カフェにでも行って朝ご飯……いや、昼ご飯を食べよう」
歯ブラシも用意する必要がある。あ、こうして女物の日用品が増えていくんだな。世の中の一人暮らしの男性はそうに違いない。
結局は近場の老夫婦が経営する小さな飲食店に足を運び、商店街の賑やかな声を聞きながら昼食を頂いた。カナはお泊りセットという存在するか疑わしいアイテムを持ち合わせていないのでシワになった服と注視したら寝癖と分かる姿だった。
「お昼を頂いたカナは帰宅します」
「そう、気をつけて帰るんだよ」
カナはムっと眉間にシワを寄せる。僕はうん? と小首を傾げた。
「ちょっとは寂しがって欲しかったりする乙女心……」
「僕には難しい話題だな。でも、昨日の今日で二十四時間は一緒に過ごしているからね。僕の心も驚いているんだ」
映画を見てお泊り……活動時間は睡眠時を考慮するならば短いけれど。一週間前の自分が想像出来ない体験をしている。
「に、二十四時間。一緒に……」
小さく呟いたカナがそっと下を向いて静かになった。光の加減が悪戯をしたのか耳が赤く見える。
「……」
暫く何かブツブツとカナが言っていた気もするが聞き取れなかった。一分程の沈黙を後に顔をあげたカナが口を開いた。
「カナはもう帰ってしまいます。送ってくれてもいいんですよ?」
「駅までは行こう」
明るい時間にカナを家まで送る……治安は非情に悪い訳じゃないと思われるが些か過保護とも見れる。けれど、どうしてもカナが家まで送って欲しいというならやぶさかでない。
「うーん。駅で我慢します。このままカオルを家まで連れて行ったら、終電とか足が電池切れを起こすかもしれません。それに、お泊りセットも無ければ部屋の整理も気持ちの整理も出来てません」
「あー、どっかで聞いたセリフだな」
ふふんっと笑うカナと老夫婦の店を後にして駅に向かった。休みは暫く続く……そう、続くのだ。明日も明後日も休みと来たらやることもやれることも多い。
少なくとも駅に向かう途中までは思っていた。けれど、予想外な事は起こりうる。
カナはゴールデンウィークに実家へ帰る訳にも行かずやることが無いと言っていた。経ったの一ヶ月で地元へ帰省をしないと今井カナは言った。
そこで僕はカナの言いたい事にも納得出来た。僕がカナ同じ立場なら同じ行動を取ると思った。
休日に見知らぬ土地を散策をするだろう。運良く穴場スポットを見つけたならば僕はほっこりとする。風が程よく吹き涼しい空間で休憩できる公園や、安く美味しい個人店なんかを見つけた時には小躍りしてしまう。いや、流石に小躍りするほどはしゃぐ元気は僕には無い。少々、過激な表現となってしまった。
では……親御さんの気持ちになってみよう。可愛い娘が都会に一人で遊びに……いや、仕事で一人暮らしをする事になった。そして、直近には長期の休みが見えている。
「あぁ!!!!」
駅に向かっている途中にカナが携帯電話の通知を見て叫んだ。
「どうした」
大きな声に僕は驚くも、その内容は想定通りと言える。
「パパとママが今からこっちに向かってるって! もー、来るなら来るって事前に……あ、昨日の夜から明日行くって連絡きてるじゃん」
「娘さんがウチで寝泊まりしています。しかも、朝昼晩の三食付きです」
「嘘だ! 今日は朝ご飯とお昼が一つになってます。あ、つまり。カオルを紹介出来るチャンスでもあると……」
意地悪そうな顔に僕は身振りで肩を落として口を開いた。
「お宅の娘さんは初日に海外ドラマを見て過ごしてました」
「それは誤解を有無と思います。カオルも見てたし」
「僕は仕事の合間に見ました。今井カナさんは四六時中見てました」
事実しか述べていないのである。なお、海外ドラマも神下部長の指示なので何も悪くないけれど、説明が無ければ業務中にドラマを見て過ごす危ない子だ。
というか、危ない職場だと思われる。
もしもご挨拶をする機会があれば。いや、実際に今すぐにでもありえる。
「色々と、そう。ごちゃごちゃになる気がするから。顔合わせは次の機会と言いますか……」
「僕は今この瞬間にでも何を話そうか悩んでいたが仕方ない。次に活かそう」
実際には考えが纏まらないだけだった。意図せず先延ばしとなってしまったが、今日のところは幸運だと思うことにする。
「じゃ、また連絡します」
「おう」
後輩の今井カナは満腹で眠気が出たのか後ろ姿から見てわかるあくびをして駅に飲まれて行った。
さて、一人になった僕は家路につく。
何よりも幸運なのは休み前に試験を受けた事だった。もしも先延ばしにしたら親御さんが来ても試験勉強に暮れていた可能性がある。途中まで試験勉強を間違えていたというアクシデントが発生したが、彼女の頑張りは隣で見た。
娘さんは頑張りやさんですとご挨拶の際に言葉を添えよう。
結局のところ……ゴールデンウィークは過ぎ去り、業務が始まるまで今井カナと会う事は無かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます