第27話「結果オーライって事で」

「ねぇ、萌は? 萌はどこ!?」 


 霞住が俺の腕に掴み掛かる。

 かなり取り乱しているようだ。


「落ち着けって、萌ちゃんなら優真がちゃんと安全な場所に避難させてるからよ」

「……ほんとに?」

「俺のオヤジか一番嫌うのは嘘だから俺は産まれてこの方嘘なんてついた事ないんだ」

「そう……」


 俺の腕を掴んでいた霞住の手が徐々に緩む。


「てか、やっとまともに俺の顔をみてくれたな?」

「……ッ……」

「俺があの日、あんたに再び会えてどれだけ嬉しかったか分かるか? なのにあんたは、俺を無視して……すげぇショックだったよ」


 俺は、霞住に対する思いの丈を吐き出す。


「ごめんね。黒木君が悪い訳じゃないの。全部私の置かれている状況がいけないの……黒木君には迷惑をかけたくなかったの……」

「迷惑ってなんだよ? この間の駄犬どもの事を言ってるのならお門違いだよ。知ってるか? 俺って結構強いんだぜ」

「黒木君が強いのは知ってるよ……でも、いくら黒木君でも……」

「誰が相手でも関係ねぇって――」

「黒木! お嬢様に近づくなといったよなッ!」


 ちッ、またこいつか。


「邪魔すんなよ小夜子、結構いいとこだったのによ」

「なッ、気安く私の名前を呼ぶな! 名前が腐る!」

「おま、それひどくね!?」

「ぷふ、ぷふふははははは」


 俺と小夜子のやりとりが可笑しかったのか急に壊れたように笑いだす霞住を「お、お嬢様……」と心配そうな顔を向ける小夜子。


「何がそんなにおかしんだよ」

「うふふ、はぁ~だって、名前が腐るって、だめ、思い出しただけで、笑いが、ぷふふふふあはは」

「まぁ、お前が楽しいなら何度でも小夜子の名前を呼んでやるさ。なぁ? 小夜子。霞住が笑ってくれるならお前もハッピーだよな?」

「ぐッ……それはそうだが……」


 従順だなこいつは。


「冷血姫がそんな大声で笑うなんて、明日は血の雨でも降るんじゃないのか?」


 血に染まった箒を肩にのせた花が意外そうな顔で立っている。

 血の雨を降らしてるのはお前だよ!


「よッ、お疲れさん」

「疲れてなんかないし。こんなんでよく裏組織なんて名乗れたものだ」

「まぁ、木っ端だし。しょうがないっしょ」

「お前達は一体なんなんだ、そいつらは裏組織の者達なんだぞ? それをこんな……」


 そこらじゅうにのさばっているうるし会の者達を指さしながら世間話の様に軽口をたたいている俺達に小夜子は最大限の警戒心を向ける。


「俺達は、普通の高校生だよ。少し腕の立つ、な?」

「そうだぞ。うちらは一般人だ」

「そんな訳ないだろ!」


 俺と花の物言いに腹を立てる小夜子を制す。


「今はそんな事よりもあっちが先だろ?」


 未だに尻もちを付き状況に追い付いていないバカコンビにくいっと顎を向ける。


「ど、ど、どうなってるんだよ恭ちゃん!」

「あ、ありえないッ、うちの精鋭達が……女子高生にそれも箒一本で全滅だなんて」

「はぁ? こんなんがお前んとこの精鋭だって? そりゃ木っ端な訳だわ」

「なぁ、零。こいつらもぶっ殺していいか?」


 ブンブンと箒を振り回す花。

 箒ではあり得ない音を出しながら、一振する度に箒についたオッサンどもの血がバカコンビに掛かるのだが、そんな事を気にする余裕などない程にバカコンビは震えていた。


「殺すのは不味いだろ。俺らは一般人なんだぜ? せめてそこら辺に転がってる木っ端同様半殺しだろうよ」


 なぁ? と殺気を当てるとバカコンビは仲良くお股を濡らし泡を吹いてパタッと倒れ込む。


「うげぇ、きったねー」

「流石だな零。殺気だけで落とすなんて。うちには出来ない芸当だよ」

「そりゃあ、お前は何よりも先に手が出るからだろうがッ!」


 俺のツッコミに花はポンと手を叩いて一人で納得している。まったく、こいつは……。


「あっ、取り敢えずコイツらのお漏らし写真を残しておこう」


 何かに使えるかもしれないと思い、仲良く小さな水溜まりを作っているバカコンビの写真を撮っていると花が、俺の趣味を疑っていたが……そんなんじゃないからね!?


「ねぇ、黒木君。萌はどこ? 安全な場所にいるって」

 一応、危険はなくなったとは言えこの場にいない萌ちゃんの事を心配している霞住。

 まぁ、早く安心させてやろうかね。


「優真、もういいぞ!」


 何もない空間に呼び掛ける俺に対して、霞住と小夜子は訳が分からない様子だ。


「木っ端相手に時間掛けすぎじゃねぇか?」

「「ーーッ!?」」


 急に何もない空間現れる優真の姿に驚く霞住と小夜子。


「だとよ、花」

「むぅっ、別にいいだろ。最近身体が鈍ってたんだから」

「いや、別に花が悪いって訳じゃーー」

「萌!」


 続いて優真の後ろから現れた萌ちゃんに反応した霞住がすごい勢いで萌ちゃんに抱きつく。


「わ、わかちゃん?」

「良かった……また、萌がキズつくんじゃないかって私……」

「わか、ちゃ……ん。ありがとう心配してくれて」

「うぅん。私、ずっと、謝りたかったの。あなたの事を避けてきたこと。ごめんなさい、また、私のせいで萌がキズついたらと思ったら怖くて、それなら、私が傍にいない方がいいって思ってッ」


 ポロポロと大粒の雫が溢れる霞住を包み込む様に萌ちゃんが腕を回す。

 

「バカなだわかちゃんは。自分がキズつくよりわかちゃんと一緒に居られない方が私は痛いのに……」


 萌ちゃんも霞住に負けじと頬をぬらしつつも、優しい笑みを浮かべていた。


「これからは、また仲良くしてくれる?」

「ん! 萌が私を許してくれるなら、もう、萌の事を遠ざけたりしない! 昔みたいに、小夜ちゃんと三人で」

「良かった、またよろしくね」


 そんな二人を遠巻きに見ている小夜子。

 若干、肩が震えている。


「ほれ、小夜ちゃん。お前も行ってこいよ」

「だ、誰が小夜ちゃんだ!」

「ツンは、いいんだよ! ほれ、霞住も三人でって言ってるしさ」

「ふ、ふん! 貴様に言われなくとも!」


 わかちゃん! 萌ちゃん! と二人の名前を叫びながら小夜子は二人の輪に加わった。


 “萌ちゃんと霞住の仲直り大作戦!”がこんなに早く叶うとは……。

 俺は未だに呑気に気絶しているバカコンビに視線を落とす。

 結果、このバカコンビのおかげってか?

 まぁ、腑に落ちないが少し大目にみてやるかと思う俺だった。


【あとがき】


 更新に大分間隔が空いてしまいすみません!

 出来るだけ間隔を、空けないように頑張りますのでこれからも零の物語をよろしくお願いします!


 

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