第15話「部長さん」
「馬鹿かあいつは!?」
慌てて連絡通路の窓から飛び降り着地と同時に【
この【迅雷】という魔法は、移動速度上昇に長けている補助魔法で、50メートル位の距離であれば一瞬で詰められる。
まぁ、下半身に物凄い負荷が掛かるので連続使用は難しいが、単発であれば使い勝手のいい魔法だ。
という訳で、俺は一瞬で坊主頭と少女の間に移動し、少女の頭上に触れるや否やのタイミングで竹刀をつかみ取る。
「「――ッ!?」」
いきなり目の前に現れた乱入者に誰もが驚き、目を見開く。
「ったく、だせぇ事しやがって……」
と俺は、握力任せに竹刀を粉々に握り潰した。
「な、なんだ、お前は! よくも俺の竹刀を!」
坊主頭は明らか狼狽えながらも俺に竹刀を握り潰された事に敵意を露わにしている。
「ガタガタうるせえんだよ。でっかい図体でこんな小さい女の子に寄ってたかってあまつさえ竹刀で殴ろうとするなんて、アホだろお前ら」
「アホだと! ん? お前、星無しか? ぷははは、星無しの下民の分際で、黒澤重工の跡取りのこのお、ぐぇえ!」
またもや星無しだの、下民だの聞くに堪えなかったので坊主頭の頭上に手刀をお見舞いする、
坊主頭は品のないうめき声を上げ、その場に倒れ込んだ。
「うん? 黒澤重工?」
俺はうつ伏せに倒れている坊主頭足でひっくり返す。
あぁ……なるほど。面影はあるな。
「終わったな、お前! 星無しのくせに黒さんに手を出すなんて! 黒さんのパパさんは、親バカって言っても過言じゃないほど黒さんを溺愛してるんだよ! ぎひひ、これはお前だけじゃない、お前の家族共々無事では済まないだろうよ!」
「ふーん、で? 何でお前が威張ってんだよ?」
「お、俺は、黒さんの一番の舎弟で、ぐぼぇ!」
虎の威をかりる何とかってヤツか……ムカつくから黒澤の隣に寝かせておいた。
てか、
「そんで? お前らもそいつらの隣で寝てみるか?」
明らかに腰が引けてる黒澤の仲間は、全力で首を左右に振る。
「なら、さっさとそいつら連れて消えろ」
今度は首を思いっきり縦に振り、黒澤と自称黒澤の一番の舎弟を担いでその場から退場していく。
さて、ウザいのもいなくなったし……。
俺は、ポカーンと口を開けて俺を見上げている少女に近づく。
「大丈夫? 怪我とかない?」
「あ、は、はい! あのぉ、そのぉ、助けていただき、ありがとうございます!」
少女は、何度も何度も俺に向かって頭を下げる。
「いや、大したことしてないから。そんなに頭を下げてもらわなくてもいいよ」
「でも……」
「いいって、いいって」
「あ、はい、すみません」
「君は……園芸部かなんか?」
「あ、はい。高等部二年B組
「へぇ、俺と同じ学年だな。俺は二年A組、黒木零だ」
「同じ学年? 私、幼稚舎からこの学園に通っていてるのですが、黒木さんの事を初めて見た気がします」
幼稚舎からって事は、この田母神さんも家柄の良い子なのだろう。
とりあえず、彼女の疑問を解消させる事にする。
「俺は今年からこの学園に転入してきて、今日が初登校なんだ。だがら、田母神さんが、俺の事を知らないのは当然だよ」
「外部生の方なのですね。高等部のしかも二年生のこの時期に転入してくるなんて、凄く優秀なんですね黒木さんは」
「田母神さんは俺の事を星無しだの下民だのとか言わないの?」
この子は内部生、俗に言う星ありだ。
今までの星ありの態度を見ると俺の様な外部生の事を下民だの星無しだの、ノービスだの……あの子もそうだったし……。
「そんな! 外部生の方々は、よっぽど優秀ではないとこの学園に転入できないので凄いと思っていますし、尊敬しています」
田母神さんは、曇りのない目でそう言い放つ。
うん、嘘偽りない彼女の本心だろう。
優真の言っていたごく一部の一人に田母神さんは入るのだろう。
それにしても内部生って事は、この子もいいところのお嬢様って事だよな……田母神って……。
「田母神さんって、もしかしてTABO電機の?」
「はい、創業者の孫にあたります」
TABO電機株式会社は、田母神源一が一代で築き上げた日本国内でも三指に入る総合電機メーカーで年間連結売上高五兆円を越えるグローバル企業だ。
そして、一応オヤジと顧問契約を結んでいる。
つまり
顧問契約が何かという事は……のちに話すとしよう。
「言い方が悪いかもしれないが、TABO電機なら黒澤重工なんて、木っ端みたいなもんじゃん? どうしてあんな扱いを……」
黒澤重工は、造船業を中核とした企業であり、10年前までは世界で三指に入る大企業だったが、ある事件……まぁ、俺が関わっているんだが、それによって今となって中堅企業に成り下がっている。
なのでTABO電機に比べればその規模は大分小さい。
家柄でみたら、黒澤なんかより田母神さんが圧倒的だ。
「これは、私個人の問題ですので、家は関係ありません」
自然と俺の顔が綻びるのを感じられる。
「あわわわ、私、何かおかしな事を言いましたか?」
「いや、田母神さんみたいな人がこの学園にいてくれて、嬉しくって」
「はぅ……嬉しいなんて……」
田母神さんの顔がみるみる赤く染まっていく。
「そういえば、他の部員は?」
辺りを見渡しても田母神さん以外の部員が見当たらないので気になって聞いてみると、
「そのぉ……いません」
「うん?」
「園芸部の部員は、私一人しかいないんです……」
「一人? じゃあ、この辺りの花壇や畑は全部で田母神さん一人で造り上げたものなの?」
「はい……」
「凄いね! これだけの物を一人で造り上げるなんて!」
「いえ、そんな! 好きでやってるだけで、そんなに褒められる様な事ではないです!」
「十分褒められる事だよ。そうだ! 俺、園芸に興味があって選択授業も園芸を選択したんだけど」
「本当ですか?」
「うん。それで、良かったら俺を園芸部に入れてくれないかな? そんで、色々園芸について俺に教えて欲しい」
これだけを一人で造り上げた田母神さんに園芸について教えてもらえば、並大抵の事は出来るようになるだろう。
「園芸部に? 黒木さんが?」
田母神さんは、戸惑った表情をする。
もしかして、一人で作業するのがいいのかな?
「迷惑だったら諦めるけど……」
「い、いえ! 迷惑だなんて! 今までずっと一人でやってきたので実感が沸かなくて……ついに、園芸部に私以外の部員が……嬉しいです……」
良かった、すごく嬉しそうだ。
「じゃあ、これからよろしくな、部長」
「きゃッ、部長だなんて! こちらこそよろしくお願いします!」
こうして俺は田母神さんはと出逢い園芸部に入部した。
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