第16話「もう一人のダチ」

 田母神さんと別れ家路につく。

 当初の予定通り食料の買い出しをするために商店街に向かう。

 空腹も相まってか、見るモノ全てが旨そうに見える。

 結局、両手一杯にお惣菜を買い込む羽目になった俺はホクホク顔で家に帰った。


 時刻は十四時半。

 袋の中に入っている焼き鳥の香ばしい匂いが俺の空腹度を加速させ、それに比例して俺の足取りも速くなる。


「よし、ついた」

 

 自分の部屋の前に立つ。

 両手で持っていた袋を左手で持ち、右手でカードキーを取り出そうとカバンの中を物色していると部屋のドアが独りでに開かれ、

 俺は瞬時にバックステップでドアから距離をとる。


「誰だッ!?」

「誰だッ、じゃねぇよ! おせえんだよ」


 うん? この声は……。


「優真?」

「おう! お帰り」


 あれ? なんで?? ここ、俺の部屋だよな?

 俺は、表札の上に刻まれている部屋番号を確認する。


【3005】


「お前の部屋で間違いないぜ?」

「はぁ? てか、なんで俺の部屋にいるの? 鍵かけたよな?」

「俺がなんのスペシャリストか忘れたのか?」

「あ……ッ、潜入捜査……」

「おうよ! こんなマンションのドアなんぞお茶の子さいさいと言う訳よ!」


 優真はどや顔で俺にそう告げる。


「いや、確かに幾多の難関を突破してきたお前にとって一般人が暮らすマンションの鍵開けなんて余裕かもしれないけど、れっきとした犯罪だからな!?」

「そんな固い事いうなよ、家族だろ俺ら」

「いや、まぁ、そうだけどよ……じゃあ、俺がお前の部屋に勝手に入ったら?」

「そんなの、ぶっ殺すに決まってんだろ?」


 お前、何言ってんの?といった表情で、さぞ、当り前の様に答える優真。

 

「よし、なら取り合えずお前から死んでみようか?」


 満面の笑みでポキポキと指を鳴らす俺に対して、優真は「ば、馬鹿、冗談だって!」と慌てふためく。


「サプライズってやつを味合わせてやりたかったんだよ」


 まぁ、こいつなりに俺を歓迎してくれているのだろう。


「まぁ、いいか」

「いいんかい!」

「まぁ、お前が俺に害を為すとは思わないし、別に取られて困るような物もないしな」

「よく言うぜ。お前、通帳とハンコ、テーブルに置きっぱなしだったぜ? オヤジがせっかく用立てくれた物なんだ、もっと大事にしろよな。お前は昔からそうだ」

 

 うん? このパターンは!?

 や、やばい! 優真の説教が始まりそうだ。

 こいつ一度説教し始まるとめちゃくちゃ長いんだよな。

 てか、なんで俺が説教されてるんだ? 主の許可なしに人様の家に勝手に入っておきながら。

 ひとこと言ってやろうと思ったその時だった。


「いつまでやっているんだ、馬鹿どもが!」


 優真の背後からもう一つ影が現れる。


 癖のかかった綿あめの様にふわふわな黒髪を持つ俺と同じ年頃のメガネ少女。

 あれ? こいつ……まさか!?

 

「【エッジ】!?」

「久しぶりだな、ゼロ……いや、零と呼んだ方がいいか?」

「そっか……お前も、生きていたんだな……」

「まぁな」


 コードネーム【エッジ】。

【ベエマス】一二を争う刀剣使いだ。

 優真と同じく歳が近かった事もあり組織ではよく三人でつるんでいた。


「優真が生きていたからお前も生きていてくれたらと密かに願ってたんだ!」

「ふふ、お前と言うやつは相変わらずだな……まぁ、立ち話もなんだ、中で話そうじゃないか。さぁ、遠慮するな」

「いや、ここ俺んちだからな!? お前も相変わらずだな!」


 俺は、エッジに誘導されるがまま、玄関に入っていった。



「なんだ、これ」


 リビングに入ると、いつの間にか横断幕の様な物が掛かっていて、そこには【一般人の世界パンピーワールドへようこそ、零!】と書かれていた。


「いいだろ? お前が来るって聞いて優真と一緒に考えて作ったんだ」

「めっちゃくちゃいいよ!」

「良かったぜ、喜んでもらえたようで」

「ありがとうな二人とも。正直、俺、不安で不安でしょうがなかったんだ」

「それは俺もよくわかる。俺もそうだったからな」

「私もだ」


 二人ともうんうんと頷き、俺を肯定してくれる。


「だけど、お前達がいてくれるなら、すごく心強い! 不安なんかどっかに飛んでったぜ!」

「あははは、大げさなやつだな。だけど、俺も一緒だ」

「また、三人で楽しくやろうじゃないか」

「おう! よろしくな優真、えっとエッジは何て呼べばいいんだ?」

「花だ。風見 花」

「花か。改めまして、よろしくな優真、花!」


 俺達は固い握手を交わした。


 それから、俺が買ってきたお惣菜を肴に昔話に花を咲かせる。


 本当は外に何か食べに行こうと思っていたらしいが、俺が買ってきたお惣菜と優真が自分の部屋にあったワインを持って来て俺の部屋で再会パーティ―をすることにした。


 姿は未成年でも一応全員実年齢はアラサーだから酒飲んでも問題ないよね?

俺達は訓練されているため、いくら飲んでも酒で粗相をする事はない。人様に迷惑を掛ける事はないだろう。


 それにしても、お惣菜、たくさん買ってきてよかった。

 これなら三人の腹を十二分に満たせるだろう。


 それと、花にもオルトロスともめた時に紫響を呼んだ事を怒られたが、優真の話によると花も似たようなもので何度も優真に怒られていたらしい。


 相変わらず自分の事を棚に上げるのが上手いやつだよ、花は。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る