第14話「馬鹿がもう一人」
「森野さんは、ドリアードなんですね?」
俺の質問に森野さんは頷く。
この世界には神により世界の秩序を守るために生み出された八人の管理者がいる。
その八人は大まかに森野さんの様に表の世界の秩序を守る妖精族と裏の世界の秩序を守る悪魔族がいる。
因みにオヤジも管理者の一人で悪魔族だ。
「はい、貴方の認識通りで間違いありませんよ【ゼロ】」
「あの……【ゼロ】はもう死んだことになってるんで……できれば黒木と」
この人が管理者であれば、別に存在を隠す必要はないだろうけど、ケジメはケジメだ。
「まぁ~私とした事が、彼にも注意されていましたのに。失礼いたしました黒木君」
彼とは、おそらくオヤジの事だろ。
「いえ、いいんです。そうだ! 昨日は助かりました。森野さ、いや、理事長のお陰ですんなり解放されることが出来ました」
俺と森野さんの関係は理事長と生徒。
気軽に森野さんって呼ぶのはどうかと思い、俺は呼び方を変える。
「そんなぁ、いいのですよ。私は黒木君の保護者代わりですし……黒木君にどんな性癖があっても私は軽蔑しませんから」
うん? 性癖?
聞き捨てならないワードが……。
「ちょ、理事長! 何か勘違いしてませんか?」
「恥ずかしがらなくてもいいのですよ? 人は皆、生まれた時は裸なのですから……黒木君の新しい人生は昨日スタートしました。つまり、黒木君は、生まれ変わったという事です。裸になりたいというのは自然の摂理かもしれません」
ドリアードの特性と言うか何と言うか、鎮静効果がありそうな落ち着いた声で語られる理事長の言葉一つ一つが
凄く真っ当なことを言っているような錯覚に陥られるが、これはちっがーう!
「いや、本当違うんですって。昨日は――」
このままだと、俺が露出狂だと信じ切ってしまいそうなので昨日の出来事を理事長に説明した。
「まぁ、霞住さんが裏の方々に……では、本当に露出狂ではないのですか?」
「そう言ってます。てか、なんでそんな残念そうな顔をしてるんですか」
「いえ、別にそんな性癖をお持ちの知り合いがいても面白いかな……と」
正直すぎます……。
「はは、ホント勘弁してください」
「ふふふ、冗談ですよ」
それから、少しの間理事長と会話を交えていると、「理事長、そろそろ」と黒木さんが理事長に次のスケジュールがある事を知らせる。
「まぁもうそんな時間に……貴方との話が楽しくてつい時を忘れてしまいました。さて、今日は貴方の顔が見れてよかったです。これから充実な学園生活を送ってくださいね」
理事長は、悪戯っ子みたいな笑顔を俺に向ける。
「はい、ありがとうございます。ちゃんとやれるかどうか分からないですが、楽しんでみます!」
長い人生の中で数年しかない学生生活。
心の底から楽しんで見せる!
俺は、理事長と森木さんに挨拶をし、理事長室を後にした。
「まさか、理事長がドリアードだったとはな……てか、優真のやつ、先に教えろよな」
理事長の部屋を出た後、俺はエレベーターで連絡通路がある三階まで降り、幼稚舎の校舎と高等部校舎を結ぶ連絡通路を渡っていた。
外履きが高等部校舎の下駄箱にあるため、一度高等部校舎に戻らないといけないのだ。
腹も減ったし、早く帰りたい。
今日は商店街でお惣菜でも買って帰ろう。
自炊はできるが、色んな材料を買って一人分を作るよりおかずはお惣菜を買った方が経済的だと思う。
それに好きな物を調理時間短縮で色々と食べれるし、何よりも素人の俺が作ったより遥かに旨い。
「あの商店街は何でもありそうだし、何を買って帰ろうかな~」
どのお惣菜を買って帰るか考えただけど気分が高揚する。
ルンルン気分で連絡通路の半分ほどに差し掛かったところで、外の方から「ガシャン!」と何かが叩き割られる音が聴こえる。
「なんだ?」
音のする方を見ると竹刀を手にしている剣道着姿の学生達がたむろしていた。
剣道着姿の学生達の周りをよく見ると花壇や畑などがある。
そこら辺に粉々に砕けた鉢植えの破片が散っているのを見ると先程の音の正体はあの鉢植えなのだろう。
別段と面白い事も無いので彼らから視線を切ろうとしたその時だった。
「目障りなんだよ! 土いじりなんて他でやれッ!」
と怒鳴り声が聴こえたので俺はもう一度窓の外へと視線を戻す。
剣道着姿の者達の中で一際上背がある坊主頭が、竹刀の剣先を下に向けている。
そして、先程は別段と興味がなく気付かなかったが竹刀の剣先には、見るからに小柄な栗色の頭をした少女がプルプルと震えて縮こまっている。
坊主頭の口撃は続く。
「今日からこの場所は、俺達剣道部の野外鍛錬所にする! 部員も碌にいない土いじり部は立ち去れッ!」
「そ、それは、できま、せん」
少女は震えながらも拒否の意志を伝える。
「勘違いするなよ? これは、命令だッ! 強者から弱者に対するなッ!」
「た、確かに、私は弱者です、けど、こ、この子達を、守れるは私しかいないんです!」
この子達とは、あの少女の周りで元気よく咲いている花々や畑の作物の事なのだろう。
震える声とは裏腹に少女は強い意志の籠った双眸を坊主頭に向ける。
「ごちゃごちゃとうるせええええ!」
坊主頭は、手に持っている竹刀を振り上げ、少女の頭上に向けて勢いよく振り下ろす。
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