第12話「あの子について聞いてみた」
「うん? 俺が答えられる事なら何でも答えるぜ?」
「おう。まず、ノービスとかステラとかってなんだ?」
今日、やたらと耳にした言葉だ。
「あぁ~星ありと星なしの事だな」
「なんだよそれ?」
「ほら、ブレーザーの胸ポッケの部分」
優真がブレーザーの胸ポッケの部分を親指で指す。
そこには、一度オヤジに連れて訪れた事のある世界樹に似た樹木のワッペンがついていた。
「このワッペンがどうかしたのか?」
「ほれ、あいつらの見てみな」と今度は親指を他の生徒に向ける。
「あれは、星か?」
その生徒のワッペン内にある樹木の真ん中あたりに星の様な模様が入っていた。
「そう、これが星ありとなしの違いだ。星ありは内部進学生、星なしは外部からの転入生を示すんだよ。だから、星あり共は自分達をステラ、星なしである俺達外部生をよそ者とを蔑みノービスと呼ぶわけさ」
「なんだそりゃあ……」
「まぁ、内部生は一人残らず名家の子弟だからな、選民思想が強い奴らばかりさ。まぁ、中には普通に仲良く接してくれる奴らもいるけど、やっぱり極少数だ」
「ふ~ん、てか、オヤジはなんだってこんな学校に……」
「オヤジも色々と考えがあるんだよ。いくら巣立ったからって、オヤジの子供っていうのは変わらないんだ。表の世界でも成功して欲しいって思いがあるんだと思うぜ? それならこの学園はもってこいだろうよ」
ちっ、親馬鹿め……。目頭が熱くなる。
「それにしても、お前、転入早々冷血姫に近づいたらしいな! 朝からお前の話で持ち切りだぜ? 冷血姫をナンパした愚かなノービスってな」
「それだよそれ。なぁ、あの子何者なんだ?」
俺は昨日の少女に向けて顎をしゃくる。
「お前、そんな事も知らず近づいたのかよ!?」
「昨日はあんなんじゃなかったんだよ!」
「昨日ってなんだよ?」
俺は、優真に昨日おきた話をした。
「はぁ? お前、紫響を呼んだのか!? しかも、オルトロスの奴らをのしただと?」
「おう!」
「おう! じゃねえだろ!」
優真の声のボリュームが上がる。
「何怒ってんだよ?」
「お前は、一般人としてこれから生きるんだろうが? 何
「いや、だってさ……」
「こんの馬鹿野郎がッ、お前ならオルトロスの雑魚なんか紫響がいなくても余裕で片付けられるだろうがッ」
確かに、あれくらいなら俺の拳一つで成敗できたはずだ……。
「お前は、オヤジがどれだけの労力を使って俺達にこの平穏な日常を準備してくれているのか分かってるのか?」
「いえ……分かりません……」
「はぁ~。いいか? 本当にヤバい時以外は、もう絶対に紫響は呼ぶなよ?」
うぉ、イケメンがめっちゃ睨んでる……何という眼力。
「わかったから、それより、あの子の事を教えてくれよ!」
「ちッ、上手い事話を変えやがって……あの子の名前は、
「カスミグループってあの!? チョーお嬢様じゃん」
カスミグループ言えば、自動車、家電、IT、食品、不動産、鉄鋼、エネルギーなどなど数えきれない程の事業を展開している世界でも指折りの超大財閥だ。
たしか、時価総額が百兆円を超えるんだったけ。
なぜ、そんなお嬢様がグレープ一つで……。
「あの姫さん、誰に対しても冷たいんだよ。星ありなし関係なく誰とも仲良くなる気もないし、自分以外をゴミと思っているんだ。付き人の南里小夜子ぐらいだな、心を開いているのは。それが、クレープ一つで笑みを零していたなんてあり得ないな」
「間違いねぇって、小夜子まで一緒にいたんだぜ?」
「本当か? まぁ、お前が嘘を吐くとは思えないしな……」
「あったりまえだろ? オヤジが最も嫌う事をするかよ!?」
「それもそうだな……。よし、俺が少し調べてやるよ」
「いいのか?」
優真は潜入捜査のスペシャリストだ、これ以上頼もしい奴はいない。
「おう、任せておけ。その前に履修登録だ。お前やり方知らないだろ? 教えてやるよ」
「めっちゃ助かる!」
こうして、俺は死んだと思っていたダチと再会できた。
こんなに心強い事はないだろう。
優真に手伝ってもらったおかげで、選択授業の履修やテキストの更新をすんなり終える事が出来た。
選択授業は、週に一度、水曜日の午後の時間をフルに使って行う。
しかも、面白い事に小学部~高等部までの全生徒が一緒になって行うのだ。
優真はベースギターに興味があると言うことで軽音楽を取るらしく、俺も誘われたが、楽器って柄でもないので園芸を選択した。
なぜ数ある選択授業の中で園芸を選択したのか……?
それは、数年前に潜入捜査でとある農業高校へと潜入した際に授業の一貫で行われて畑仕事が楽しかったのだ。
自然の中でも汗水滴しながらの肉体労働。
ノルマがあるわけでもなく、好きな物を好きな様に植えて、実がなったら、採って食べる。一瞬の油断が死を招く。
そんな、張り詰めた緊張感の中で生きてきた俺にとっては、まるで天国にいる気分だった。
まぁ、俺は天国にはいけないから、余計にそう感じたのかもしれない。
あの時の気分が忘れられずに、俺は園芸を選んだのだ。
「でもいいのか?」
ポチっと履修確定のボタンを押した俺に優真が問うた。
「うん? 何が?」
「いや、そんなに姫が気になるなら、姫と同じ授業にすればいいのにって思ってさ。まぁ、今さら遅いけどなって、あっぶねー! おい、なにすんだよ!?」
俺の手からスルッと落ちたタブレットを優真が間一髪で掴む。
「……なんて事だ……優真! 何で教えてくれなかったんだよ!」
俺は、優真の両肩を掴み激しく揺らす。
「知らねぇよ! てか、言ってみただけで姫がなんの授業を取るかなんてわかる訳ないだろ?」
「お前の調査能力ならいけるだろう! ほら、いっちゃんに頼めばさ」
こいつの調査能力は俺の知ってる中でぴかいちだ。
その上にこいつが使役している精霊のいっちゃんもそれに特化している。
「バカかお前は、そんな下らねぇことでお市を呼べるかよ!」
「おま、下らねぇってなんだよ! 俺の恋路を応援してくれるのがダチのお前の役目だろうが!」
「ちょっ、離れろよ! 暑苦しいなぁ!」
「手伝ってくれるって言うまで離さないからなッ!」
教室内のん内部生共が俺達のやり取りにやれ喧しいだの、やれ下民が騒がしいだのと白い目で向けているが、そんなの関係ねぇ!
「わかったから! 協力するから、離れろって!」
「よっし、約束だかんな?」
優真はやれやれと言った感じで首を縦に振る。
「てか、元々姫の身辺調査に協力するって言ってただろうが」
「……そういえばそうだな」
「ったく、ブレーザーが皴だらけじゃねぇか」
手の平で俺が掴んでできた肩の部分の皴を伸ばしている優真に、すまんと謝る。
「みんな~終わったかなぁ~? 帰りのホームルーム始めちゃっていい?」
このタイミングで知多先生が、教室に入ってくる。
さっきと比べて顔色が少し良くなった気がするが気のせいだろうか?
そんな事を考えていると、優真が俺の隣に座り「お前、帰りどうすんだ?」と聞いてきたため、
「森野さんに呼ばれてる」と答えると「あぁ~理事長かぁそういえば俺も初日に呼ばれたな」と優真は納得したような表情を向ける。
やっぱり、森野さんは理事長だったらしい。
「理事長ってどんな人なんだ?」
「うーん、奇麗な人だよ、心臓が飛び出るくらいね」
「女の人なの?」
「あぁ。それじゃあ、俺は部活休みだし先に帰ってるわ」
「オッケー、てか、お前どこに住んでんだ?」
「うん? あぁ、知らないんだっけ。お前の部屋の隣」
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