第11話「ダチ」
やや猫背気味な白衣姿、知多先生の背中を目で追いかける。
転入初日からセクハラなんて……この人には当分頭が上がらないだろうな。
俺は担任の知多先生に続いて、教室に入る。
坊ちゃん刈りズは、保健室へと直行したのかここにはいない。
この扇型の教室は、入口から見て奥に行けば行くほど広く高さのある階段教室だ。
教室自体広々としているので生徒は数名のグループで固まってまばらに座っている感じだ。
おっ!? あの子もいる。
やっぱり、あの子と俺は運命の糸で結ばれているのかもしれない。
そう思う事で自分を慰め破顔していると、あの子の隣に座っている小夜子に思いっきり睨まれる。
わかったよ、見ないよ……そんなに睨む事ないじゃんか……。
「ほら、黒木君。席に座って~」
「あ、はい」
知多先生に急かされ、俺は比較的に席が空いている右中段の席に腰かける。
「おい、あいつだろ?」
「あぁ、俺見たぜ? 姫に言い寄って思いっきりあしらわれた惨めなノービス」
そして、俺の耳に聞こえるひそひそ話……。
やれバカだの、身の程知らずだの、下民だの……。
一発ぶん殴ってやろうかな?
「しずかに~ホームルーム始めるよ~」
一言文句でも言ってやろうかと思っていたら、知多先生に遮られ断念する。
まぁ、ひそひそ話も止まったからまぁいいか。
知多先生からは、簡単な連絡事項が告げられる。
今日は、これから新学期の集会があり、それが終わったら選択授業の履修登録やテキストの更新などを行い帰宅という事だった。
この学校は基本ペーパーレスなため、学校から支給されるタブレットで全てが賄える。
カバンが軽くて助かるぜ。
「あ~そろそろ、集会が始まるわ~学生ちゅーもーく」と知多先生の指さす黒板の上から薄い板みたいのが下りてきて、そこに映像が映し出される。
集会だからといって、体育館や校庭とかで集まってやる訳じゃないのだ。
さすが世界有数のエリートと言われているだけあって色々と驚かされてばかりだ。
まぁ、いかにエリート校だからといって集会というものが退屈な物である事は変わらず、俺は夢の中へと
「……………………ーい」
……ん……な、何だ……?
「おーいってば」
誰かが俺を呼んでいる。
「いい加減起きろって!『パチン!』」
「いってえなああああッ!」
急に頭を叩かれた俺は、怒り任せに起き上がる。
「やっと起きたか」
俺の目の前には、きりッとした長身のイケメン君が立っていた。
「やっと起きたかじゃねぇだろ! なに人様の頭叩いてくれちゃってんの?」
「はぁ~相変わらずだなお前は」
イケメン君は、溜息を吐き、やれやれと言った感じで俺に憐みの視線を向ける。
イケメン君の俺に対する態度がやけに懐かしく感じられる……。
それはそうと……「相変わらず?」
「俺だよ、俺」
「何だその詐欺の常套手段みたいな。俺は騙されねぇぞ?」
「誰がお前なんかにオレオレ詐欺なんかするかよ! 俺だよ【J】だよ!」
うん? こ、こいつ……なんて言った?【J】……だと!?
「はぁああ!? お、お前【J】なのか!?」
「そう言ってんじゃん」
【J】。ベエマス時代の仲間だ。
変装を得意とし潜入捜査に特化したエージェントだ。
【J】の由来はJOKERからきており、何者にもなれて何者にもなれないという意味合いでオヤジに付けられたコードネームだ。
そして、組織で俺と比較的仲の良かった
「じぇえええい! 俺、俺よ、お前が、死んだってきいてよ」
【J】は潜入していた組織に囚われ、拷問によって殺されたって聞いていた。
だけど、【J】は生きていた。
オヤジの言っていた通り、俺のダチが生きていたのだ。
俺は【J】を抱きしめずにはいられなかった。
「ったく、相変わらずだな【ゼロ】いや、今は零と呼ぶべきか」
「ぐすっ、なんで俺の名前を?」
「オヤジの所を巣立った家族には、新しい家族がこっちに来る時には連絡が来るようになっているんだ。裏の世界で家族だったのと同じ様に
そうか、オヤジめ……。
「あぁ、よろしくな優真!」
「こちらこそ、よろしくな零!」
俺達はお互い右手を差し伸べて固い握手を交わす。
「それにしても……お前、そんなイケメンだったんだな。てか、それも変装じゃないだろうな?」
優真とは決して短くない付き合いだが、俺はこいつの素顔を見た事がなかった。
変装の達人故に決して素顔をさらす事がなかったのだ。
「あはは、そうだな。お前に俺の素顔を見せた事ないもんな。心配するな、これが正真正銘、俺の顔だよ」
「ちっ、イケメンが……」
「まぁ、そう言うなって」
「イケメンというのは認めるんだな。そうだ、一般人先輩のお前に色々と聞きたいんだけど」
聞きたいことが多すぎる。
だが、折角聞ける相手がいるんだから、聞いてみよう!
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