第7話「メイドさん!?」
「げッ、小夜子……」
「やっと見つけましたッ!」とメイドさんはズカズカと近づいてきて、少女の腕を掴む。
「さぁ、帰りますわよ! 」
「痛いよ、小夜子」
「おい、やめろよ! 痛がってるだろうが!」
メイドの暴虐。
見るに絶えなかった俺は、ついつい口調を荒げてしまう。
「だまれよ、クソ変態」
予想の斜め上をいく返しがきたため、俺はしばらくフリーズする。
「ちょっと小夜子、失礼よ! 黒木君は私のために!」
俺の事を悪く言った事について、メイドさんを叱咤する少女。
「ですが、お嬢様……。こんな公共の場で、この男のこの格好はいかがな物かと……」
俺の恰好? 何を言ってるんだこのメイド。
あッ……、赤頭の火球のせいで俺の服という服は灰に変わっていた。
ギリギリ尊厳を保つかの様に、俺はパンいちの姿で立っていたのだ。
だが、ここで恥ずかしがるのは悪手だ。
堂々としていればいい。
正義は俺の中にあるのだから!
と物思いに更けていると、
「あれ?」
俺の目の前には誰もいない。
数メートル離れた先で黒塗りのドイツ車に無理矢理乗せられ少女は、そのまま俺の目の前から消えていった。
「はぁ~結局名前は聞けず終いかぁ……すげえタイプだったんだけどなぁ」
トントン
少しへこんでいると、俺の肩を叩く感触が……まさか、戻ってきてくれたのか!と勢いよく振り向くと……二人のお巡りさんがニコニコして立っていた。
「ちょっと署まで一緒に来てもらえるかな?」
こうして、俺の一般人としての初日は幕を閉じた。
◇
「くそ……昨日は散々だったぜ」
俺は洗面台の鏡の前に立って寝ぐせ直しのスプレーを髪に振りかける。
昨日、あの後、警察署まで連れていかれた俺が解放されたのは、既に辺りが暗くなってからだった。
「それにしても……この、森野って人は何者だ?」
と、俺は自分の履歴書に視線を落とす。
保護者の欄に書いてある森野
俺は現在十七歳。つまり、未成年だ。
そのため、警察署でやたらと親の連絡先を教えろと詰められ仕方なく親はいない事を告げ、保護者としてこの森野という人の連絡先を教えたら、出鱈目を言うなと滅茶滅茶怒鳴られた。
しかし、いつまでも押し問答してる時間が惜しく、俺も引かなかったため、お巡りさんはしぶしぶこの森野という人に連絡を取る事に。
結果、森野さんが本当に俺の保護者代わりだという事が判明した。
俺を取り調べていたお巡りさんは真っ青な顔で俺に平謝りし、署長まで出てきて俺に謝罪する始末……パンいちだった俺が全面的に悪いのでそこまで謝らなくても良かったのだが無事解放されたので良しとしよう。
警察署長まで出てくる程だ、森野さんはかなりの力を持っている人かも知れない。
一応、昨日部屋に戻り次第すぐにお礼と謝罪の電話をしたのだが森野さん本人ではなく、森野さんの秘書の森木さんという人が対応してくれた。
森木さんからは、今日の放課後理事長室に来てくれとの事。
つまり、森野さんは、俺が今日から通う【私立
「まぁ、それは会ってみれば分かる事か」
深く考える事は辞めて俺は学園へ向かうため玄関の扉を開けた。
学園までは、マンションから歩いて十分程の距離にある。
歩いても、歩いても、その高さ故にいつまでの俺の視界に入っているオヤジから与えられたタワーマンションを何度か振り返る。
都内の一等地に聳え立つタワーマンション……一体いくらするんだ?
一介の高校生の一人暮らしにはいささか過ぎたものではないのだろうか?
これが、一般人の暮らしというものだろうか?
「分からない事を考えてもしょうがないか。貰えるものは貰っておいて損はないだろう」
普通の一般人の暮らしというものがどういう物かは知らない。
任務で一般人に紛れて生活した経験も何度もあるが、それは任務として役を演じていただけだった。
それは普通の一般人とは言えないだろう。
だから、難しく考える事はやめてとりあえず進む事にする。
ノープランで命の危険にさらされるという訳でもないだろうし。
そんな事を考えながら進んでいると、俺の視野に広範囲で木々がこんもりと生い茂っている、都内の一等地には似つかわしくない
「本当に森だな……それにしても」
そして、森には大樹と呼ぶにはあまりにもおこがましい巨樹が四方に聳え立っており、四方の巨樹を結ぶかの様にいくつもの連絡路の様な物が設置されている。
学園までの道のりを調べるために学校のウェブサイトを覗いていたので、前もって学園の外見は知っていたのだが……実際目の当たりにしてみると圧巻という言葉しか思い浮かばない。
もし、下調べをしていなかったらここが学園だと思わずさ迷っていただろう。
――私立亞聖学園
創立三百年を超える歴史がある由緒正しい世界でも指折りのエリート校。
今日から俺が通う学校ってやつだ。
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