ライバル勝負 編
第35話:なんでお前はビキニでチアリーディングの真似事をやってんの?
取り決めどおりの二週間後。
那珂川学園・水泳部が使っている屋内プールには、対決する俺と赤柴元哉以外にも多くの人が集まっていた。
その中でも一際目をひく超やかましいのが――。
「フレ~~フレ~~♪ フレフレ先輩、いけいけヒロムン♡」
ビキニ水着とチアガール服を合わせたような露出の多い恰好で、その暴力的なボディを大きく揺れ動かしながら足をあげたりポンポンを振り回す
チアリーディングよろしく愛奈が軽快に飛び跳ねる度に、ふたつの巨大果実がぽよんぽよん揺れるわ、健康的な太腿・生足は丸見えだわ、ビキニでくっきり見える日焼けの黒と肌の白さのコントラストがへそだし以上に煽情的になっている。
準備体操をしていた俺は一度中断し、床タイルの上を早足で歩いて「何のつもりだお前は!」と愛奈の頭をぺちっとはたく。
「あたっ。ちょっと幾ら愛しい先輩でも公開DVはマズイですって」
「お前の言動程じゃない」
「エエー、至って自然かつ全力で応援したいあたしの真心に何の不満があるんデスか?♡」
全てだよ!
「とりあえず気が散るから、少し大人しくしとけ」
「あらあら、女の肌を見慣れてるさすがの先輩も今の愛奈ちゃんを前にしては集中できませんカ? 悩殺されちゃいますカ?? あ、やあん♡ そんな強引に腕を引っ張って人のいない部屋に連れ込もうとするのは反則ですってば~~~♡」
もう何も聞こえないフリをして、俺は自分のジャージとタオルを使って愛奈の露出度を減らしてベンチに座らせる。
それでようやく真剣に大事なことを伝える事ができた。
「いいか、愛奈。今日は男と男の勝負日なんだ」
「もちろん存じてますヨ♪」
「ほう。だというのにお前はそんな恰好で場の空気を乱したと?」
「いやいや、このぐらいで乱れるアウェーの空気なんて最初から無い方がいいデショ。先輩も使っていたこのプールは、今となってはもはや敵地のど真ん中。見学や応援に来てる水泳部関係者によってピリつく空気は、先輩には悪影響を及ぼしますよ」
ペラペラと喋る愛奈はどうやら純粋に邪魔してるのではなく、あくまでも俺のためにやってくれているらしい。
それはありがたいし、嬉しいのだが……しかしなぁ。
「その気持ち自体はありがたい。なんだったらお礼にハグしてやってもいいぐらいだ。だがな?」
「え! じゃあ早速ハグを♡」
「続きを訊け。愛奈の行動は、あまりにも強烈に場を乱し過ぎてるんだ。これじゃ俺がいわゆる盤外戦術を仕掛けてると見られかねん。場合によっては反則負けになる可能性もある」
(ひそひそ)「大丈夫です! 盤外戦術をは勝手にあたしがやってるだけなので、先輩は一切何も知らないし関係ないとシラを切れば良いのデスよ」
こいつ、わかってやってたんかい!
「……仕方ない。あんまり遠まわしに言っても伝わらないようだから、ストレートに言うぞ?」
「はひ?」
「その姿の刺激が強すぎてな、その女っ気の無い水泳部員達が……ふつうに立てなくなってる。より正確には前かがみになって大変そうなんだ。あれじゃ見学や応援もできやしないし、ひじょーに外聞が悪い」
大変悲しい男のサガだ。
誰もなりたくてそうなってるわけじゃない。
「……アアッ! このままだと色んなところが膨張してオスくs――」
「やめろって」
「うんうん、了解しました。このままだとあたしは飢えた男達にさらわれて、あーんな目やこーんな目に遭う危険があるからダメって事ですね♪」
「……もうそれでいいから、自重しろ。な?」
「わかりました。愛奈の身体は、欲望と独占欲うずまく博武先輩のために綺麗なままにしておきますので安心して行ってくだサイ!!」
「あ、すいません九錠先生。やっぱりおたくの姪っ子がやらかさないよう近くで見張ってるのが正解です」
「ちょ!? それはズルイですよせんぱーーーー――――!!」
俺の提言に了承した九錠先生にズルズル引きずられ、愛奈は一旦更衣室に退場となった。戻ってくる頃にはきっともう少しはまともな姿になっていることだろう。
「ふぅ……悪いな元哉、騒がしくて。……あと身体は大丈夫か?」
「そう思うならもっと早く対処しろやボケが!!」
反対側のプールサイドで準備を整えていた元哉にキレられたが、仕方ない。
あえて愛奈には説明してなかったが、あいつのアホさで被害を受けたのは見学・応援にきた水泳部員だけではなく元哉も含まれていたのだ。
しかもコイツの場合は一層ひどい。ちょっとチラ見しただけなのに、那珂川学園水泳部の真のボスことクール美女マネージャー・氷上さんによる凍えそうなブリザード視線を浴び続けたあげく、最終的にはコブラツイストされてたしな。
「ほんとにすまない。だが、あいつも悪気はないんだ」
アレで。
「ちっ。今度ふざけた真似したら問答無用で叩きだすからな」
「そうなる前に俺が止めるよ。約束する」
「まあいい、あの程度でオレの泳ぎに影響なんかねえ。逆にお前があのギャルがいなきゃ腑抜けるってんなら許容もしてやるよ」
「待て、それは誤解だ」
むしろあいつがやらかすと俺も調子崩しそうだし。
「はっ、何が誤解だ。どうせこの二週間もアレと乳繰り合ってたんじゃねえのか? 元水泳部エースの名が泣くぜ」
「そういうお前はどうなんだ。氷上さんとは上手くやれてるのか?」
「な!? なんでここでジャーマネが出てくんだよ!! 別にあいつとはなんでもねえし……」
「ふーん……なんでもないんだぁ? へぇー、ほぉー……?」
「元哉! 悪い事は言わないから今すぐマネージャーのご機嫌をとってこい! お前には見えてないだろうが、さっきから圧がヤバいぞ!?」
「あ……? なにいってんだお前」
元哉がくるりとマネージャーの方へ振り向くと、彼女は別人のようにホワホワと柔らかい表情で手を振ってきた。
いかんなコレは、後々こっそり個人的にシバこうとしてるに違いない。
「許せ元哉。もう俺にはお前を助けてやれなさそうだ……」
「勝負相手に助けるもクソもあるか! ナメてんのかてめぇは、変に惑わしてくるならもう行くぞ!」
半ギレながら離れていく元哉を見送った後、俺は準備体操を再開しようとする。
すると、最近お世話になりっぱなしなナイスガイの声が響いてきた。
「いやあ間に合ってよかった。調子はどうだい、鳶瑞くん」
「悪くはないですよ。ゴリクマさんのおかげです」
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