第21話:抱きしめてスリスリしてクンクンしてみた
みずから望んで、この可愛い後輩を抱擁していた。
年下の女の子の身体はこれまでに散々味わわされたはずが、こうして改めて自分からいってみると非常に衝撃的かつ刺激的だった。
柔らかい。気持ちいい。触れた場所が吸いついたかのように離れがたい。口の中が乾くのと熱いのは夏の暑さによるものだと誰か言ってほしい。
「んふふ、もっと強くても大丈夫ですよ♪」
「こうか?」
「そそ、いい感じです。そんで、右手は腰の方、左手は肩の方へ回す感じで……んしょっと」
ポスンと愛奈の頭が俺の胸にあたり、そのまま彼女は顔を埋めてくる。
「すんすん……はぁ~~~、これが先輩の匂いですかァ男くさっ♡」
「臭うのか……?」
「いやいや、ディスってないので。むしろあたしはこの匂い、ラブですよ」
「そういう事は気軽に言うなよ」
「正直に言ってるだけでース。嫌いだったら嫌いって言いますしィ♪」
なんなんだまったく。
どうして俺の方が照れなきゃならないのか。
「愛奈、その、言い辛いんだが……ちょっと体を」
「どこかダルいですカ?」
「ではなく、ほら胸とかが、な?」
「ァー……じゃあ、これでどうですか♡」
俺は少し離れないと大事なところが当たる的な意味で言ったのだが、
愛奈はその真逆で受け取ったのか一段階ギュッと距離を縮めてきた。
もうコレは何を言ってもダメだな。
心の中の俺が匙を投げる。ついでに密かに男の欲望全開でガッツポーズしはじめた。
「……もういい。次はなんだったか」
緊張と興奮が合わさって頭がバカになりそうだ。
「なでなでデスね!」
「尻をか?」
「さりげなくキモい人には、エロ先輩の称号授けましょう。学校で会ったら大声で読んであげますネ♡」
人を気軽かつ社会的に殺そうするな。
やはりこの女は侮ってはならないッ。
「か、髪でよろしいでしょうか」
「髪というか頭の上?」
「聞きかじっただけだが、そういうところを触られるのって嫌なんじゃ?」
「先輩ならいいデス! というかこの状態でイヤとかないですヨ」
……くっそ、さらっと特別感を出してくるんじゃない。可愛いじゃないか。
あー、もうほんとにダメかもしれない。
俺はこの変なヤツにどれだけ参ってしまっているのか。
そんな葛藤を隠すように、愛奈の身体の後ろに回していた手を頭の上へ伸ばしてなでる。水で濡れたものではなく、こうやって渇いた髪に触れるのは初めてだったろうか。彼女の長い金色の髪はとてもサラサラで、許されるならいつまでもこうしてたくなる良い触り心地だった。
ふとその煌びやかさに惹かれて軽く鼻を近づけて嗅いでみると、愛奈が近くにいる時のいい匂いがより強く感じられる。が、すぐにベチッと背中をタップされて中断せざるをえなかった。
「女の子の髪の匂いをクンカクンカするなんて変態ですカ」
「いや、お前が嗅いでたからいいのかなと」
「胸と頭じゃ釣り合わないデショ!」
「それだと胸ならイイって話になるが」
「ヘァッ!? …………そ、そんなに……嗅ぎたいです?」
こんな至近距離でそう確認されて『NO!』と答える男がいるか!
……くっそ、俺の理性がもう少し崩壊してれば遠慮なんてしなかったろうに。
「冗談だ。男と女の部位の価値が違うくらい、俺にもわかる」
「ですよねェ」
とてもホッとした空気を醸し出す愛奈だが、せっかく人がストップしたのにお前がそこで顔をグリグリ押しつけてきたら意味ないだろ。
されても文句は言えないぞ。脳内裁判では満場一致で「無理もない」判決だ。
「それじゃフィナーレに励ましの言葉をプリーズ」
「が、頑張ったな?」
「ブッブー、それじゃ心がこもってないのでNGですネ」
「そうは言うがな。具体的に何に対して励ませばいいのかが……」
「んー、じゃあお話しながら適宜励ましてくださイ♡」
そう告げた愛奈が添い寝を続行したまま話しだす。
要するに愚痴だ。彼女が口にすると大分軽く感じはしたが、その感覚は俺が彼女の抱えたストレスをあまり理解できていないせいだ。
「師匠が言ってました。二次創作の同人誌と商業の漫画を書き手は全く同じものとして見ちゃいけない。特に愛奈はオリジナルがへたっぴだからっテ」
のっけから専門的な話らしく、俺は黙って先を促した。愛奈も全部が伝わるとは思っていないのか、深掘りすることもなく起きた出来事だけを記憶から抽出しているようだ。
「二次創作は自分の大好きを詰め込んで作ります。だから元ネタがあって、元になるキャラが既にあるわけです。あとはソレをどう自分なりに描くかになるんデスが、オリジナルは一から考えないといけませン。あたしの場合は、その一からが苦手なようで……描きたいイメージを上手く絵にできませんでした」
ポン、ポンとゆっくり背中を叩くと、くすぐったそうに愛奈が身をよじる。
「何が描けなかったんだ」
「理想の肉体――筋肉です!」
わかりやすすぎて涙が出そうだよ。
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