【番外編・クリスマス】:せいや・せいやッ・せいや! ※好きな漢字を当てはめてネ 

「じゃーん! あなたのおうちにメリークリスマス! サンタ愛奈さんですヨー!!」


 テンション高めの愛奈が俺を訪ねてきたのは、誰もが知っている冬の大イベント日だった。扉を開けて出迎えた瞬間、真っ赤なサンタ服(※この寒いのにミニスカ)を装備したその姿は、正に聖夜にふさわしい……のだが。


「お前、その格好でウチまで来たのか?」

「世界に愛という名のプレゼントを振りまいてきました♪」


 コイツの目立つ行動は今に始まった事ではないが、ご近所に変な噂が立たなければいいなぁ。とても可愛いのは良いとしても、おそらく室内用であろうその女性向けサンタ服はいかがわしいアダルトなサンタとして見られかねん。


「そんなんじゃ寒かったろ? 俺の部屋は暖房入れてあるから――」

「お邪魔しまーす! ハァー、あったかーい」


 最後まで言い終わる前に、愛奈がシュバッとウチへ足を踏み入れる。その速さを持ってすれば寝ている子供に見つからないようプレゼントを置くぐらい余裕で出来そうだ。


「まだ出るまで時間があるな。ココアでも飲むか?」

「やほーい!」


 俺の寝室に入った途端ベッドにダイブするサンタ愛奈がかけぶとんにくるまり、あっという間にミノムシのように丸くなってしまう。もうなんか、呆れてしまって注意する気も起きないな。


「あったかあったか♪ ……クンクン、ふはぁ~博武先輩の匂いがしますね~」

「目の前で嗅ぐなよ、変態かお前は」

「ェー、いいじゃないですか減るもんじゃなしー。それとも、先輩が直接嗅がせてくれますか? お触り筋肉サービス付きで♡」

「悪いな、そのサービスは諸事情で休止中だ。飲み物持ってくるから大人しくしてろよ?」

「ハーイ♪」


 明るい返事を聞いた後、ちゃちゃっとあったかいココアを作って部屋に戻る。すると、そこにはもう我がもの顔でくつろぎまくってるダメなサンタが生まれていた。人のベッドでゴロゴロしながらスマホをポチポチいじる姿は自由の象徴のようだ。


「ほい、気をつけて持て」

「わーい、ココアー♪ 寒くなるとコレが飲みたくなる時ありますよネ~」


 愛奈が口をつけてずずっと甘い香りのホットココアを堪能すると、「あちあち」と小さな舌を外に出して冷まし始めた。それを何度か繰り返すとちょうどよい温度になったのか、コクコクと美味しそうにマグカップを傾けていく。


「ふはぁ~、いいですねぇ先輩の作ってくれたココア美味しいです」

「ちょっとだけ手間をかけてるからな」


「え、まさか『俺の特濃ミルク入りだ』とかそういうヤツですか」

「とんでもない事を口走るなよサンタがさ!!」


 ちょっとココア吹いただろうが!


「やだ先輩♡ もー、頭の中ピンク一色のお花畑なんだから~」

「……いいか愛奈? そういうネタはこの後絶対するんじゃないぞ? あいつらの俺を見る目が更にヒドくなりかねないからな」

「水泳部の皆ですね。でも、今更じゃありません? 博武先輩が、その筋肉を利用して可愛い後輩を堕落させたのは事実で、水泳部の仲間達も知ってるでしョ」

「知ってる知らないの問題じゃない。目の前でアホなやり取りをするなと言ってるんだ!」

「あははは♪ 大丈夫ですよ、あたしは空気の読める女ですから」


 確かに空気は読めるかもしれないが、同時にマジでポロッとやりかねないからなぁ愛奈は。

 今日は夜になったら九錠先生が中心となって友達や知り合いを集めてクリスマスパーティ(という名のストレス発散会)をやる事になっているが、今からこれじゃあ安心するのは早すぎるってものだ。


 水泳部のやつらに引かれるのはキツイ。

 さらに、参加するメンバーの中には同人系であるところのナタデボコさんやタベネコさんもいるらしいのだ。そっちにぶちかまされるのはキツイなんてもんじゃなかろう。

 ……挙句の果てには九錠先生みずからの手で粛清されかねん。考えるだけで恐ろしい。


「……愛奈。もし俺が再起不能になるようだったらせめて骨は拾ってくれ」

「先輩は友達とのクリパでそんな目に遭うような予定があるんですか?」

「お前次第だ」

「はへ?」


 すっとんきょうな顔してるが、ほんとにわかってんだろうなコイツ。

 俺が五体満足でいられるかは、半分以上お前にかかってるんだぞ。


「まあまあ、大丈夫でしョ! ……そんなことより~、せんぱーい?」


 愛奈が急にねこなで声をあげはじめる。

 こういう時は決まっておねだりに繋がるのだ。


「せっかく後輩がベッドの上にいるのに、なーんにもないんですか?」


 挑発的に足を組み直したかと思えば、頭を預けるように真横に移動してくる愛奈は大変蠱惑的でフリーダム。細い指先で俺の足の付け根あたりを怪しいソフトタッチで撫でまわしてくる。


「お前、そんなことやってるといつか泣かされるぞ」

「既に何回もなかしてるのは棚上げですか?」


「……いや、それは……その」

「冗談ですよぅ、そんなマジで受け取られると意地悪したくなっちゃうからダメですってば」


 こいつ腹立つわー。


「ふふふっ、このあと楽しみですね~。クリパ用の買い物して、プレゼント交換会のプレゼント用意してー、あ、集合前にイルミネーション観に行きたいでス!」

「盛りだくさんだな」

「いいじゃないですカ、聖夜なんですから」


 お前はいつでもそんな調子だろとは言わないでおこう。

 楽しそうに話す愛奈をもっと見ていたいから。


「……ガン見ですか。もっと見ます?」

「おもむろに服を脱ごうとするな。こら、前かがみもダメだ」

「え~……? むしろ前かがみにならないとダメなのは先輩の方なんじゃないですかァ? ああ、可愛そうな後輩ちゃんは猛り狂う雄の本能のはけ口として、このあととても人様には言え無いようなあーんな事やこーんな事をされるんですね。およよよ……」


 そういう方向に誘導してるのは誰だ!?


「真面目な話。もてあましてるなら誰かを毒牙にかける前に発散しといた方がよくないですか」

「一ミリも真面目じゃないな」

「先輩のナイス筋肉を味わいたくてハァハァしてるので」


 すんな。


「その興奮はクリパで使おうな」

「じゃ~あ~、出発時間まで先輩で我慢しますから~」

「そう言いながら膝の上に座るのかよ……」


 少し手を伸ばせば愛名ご自慢のものに触れてしまう。

 俺の理性が挫ける前に膝上からどくのが正解なのだが、愛奈はスマホを構えて自撮りをし始める。バッチリ俺が写りこむように、俺の手を自分から掴んで股間に差し入れながらだ。

 

 パシャシャシャシャシャ!


「おまっ!? なに連写してんだ!」

「えーっと『こういう状況なんで、先輩が落ち着いたら現地に向かいます。ツヤツヤで到着したらごめんネ☆』でいいですかね」


「良くない! ああ、わかったわかった! して欲しいことがあるなら可能な限り聞くから遠回しかつ危ない真似はよせ」

「ふふん、最初からそう言えばいいんですヨ~♡ あ、でも本当に嫌ならやめますから大丈夫!」


 なにひとつ大丈夫ではなさそうだが、結局俺は拒否しないのだから咎める資格などない。


 ――予定より遅れるかもな。

 

 そんな予感は見事的中。

 クリパ会場のレンタルスペースに到着した際、そこにいるメンバー全員に冷やかされたのだが……。


 愛奈は変わらずニコニコだった。あと多少ツヤツヤだった。





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