第4話Bルート:おーぴーぴーえーあい!!

「……んん」


 ふと目が覚めた。

 なんだか、昔の夢を見ていたような気がする。


 駅近くの茂みで過激なちちくりあいに興じて、なんとか愛奈の欲望をまぎらわせつつ急いで家に帰って……それから……部屋で……。

 時間を確認するために、暗い部屋でもぞもぞと寝返りをうとうとして、気付いた。

 

 腹筋が気持ちいい。

 より正確にいうなら、腹筋に乗っかって上下する大きなモノによる極上の感触が心地いい。


「……ん~、先輩のカラダさいこーでス……くー…すー…」


 仰向けのまま頭だけを起こすと、タオルケットと俺の間に愛奈が潜りこんでいた。

 まるで極上マットを堪能しているかのように、大変寝心地良さそうにしている。


 俺も非常に気持ちいい。

 何故ならシャツしか着てない彼女に備わった至宝が、がっつり俺の腹に押しつけられているからだ。たまにみじろいだ際に敏感な部分が擦れるのか、「ふぁ♡」と艶めかしい声が聞こえるのも男として興奮しないはずがあろうか。いや、ない。

 

 呼吸に合わせて形を変える胸部を眺めつつ、半ば強引にぼーっとしていた脳が覚醒するハメになったため、どうしてこんな状態になっているのかが思い出せてきた。コイツが俺の寝室に無断侵入してきたとか、そういう訳じゃない。単に、こんな体勢で寝てしまうような事を起きてる時にやってただけの話だ。


 俺達は、それを許す関係だった。

 ある意味健全で淫猥な、誠実さに欠けるよろしくないタイプの関係だ。


「……はれ? 博武パイセン……もう起きる時間でうか?」


 俺の邪な気持ちを察知でもしたのか。よだれをたらしかけていた愛奈が体を起こしてくる。


「まだ寝てて大丈夫だぞ」

「ふぁ……ですかぁ、じゃあ……遠慮なく」


 再び寝入るのを促しておいてなんだが、愛奈がさらにしがみついてくるのは予想外だった。抱き枕扱いされた事で肌と肌が触れ合い、さらに強く無防備な凶器がむにゅん♪ と嬉しそうに潰れていく。


「愛奈。このままだと俺が大変なことになってしまう」

「ェー……? もっと博武パイセンのシックスパックを直接味わいたいのにぃ」


 本気か冗談かはわからないが、危うさは変わらない。

 このままではその辺に転がってるであろう近藤さんの第二陣が出撃しかねない。


 お互いにシャツと下着程度しか身につけていない今、異性特有のいい匂いとか後輩のいやらしい豊満ボディから生まれる抗いがたい感触は、青少年の本能を否応なく刺激しているのだ。


「そんなに腹筋を味わいたいなら、何かお返しを提示してくれ」

「じゃ、あたしが触れた分だけ先輩も触っていいで、どうです?」

 

 寝ぼけ眼でむにゃむにゃしながら、愛奈がまた強烈な条件を持ちかけてきた。

 再び身体を起こした彼女は、自分の強みを見せつけるようにみずからの両手でデカチチをギュッと内側に押しつけてみせる。


 ――いかん。そろそろクールぶってるのを保つのも限界に近い。

 こんな時は素数を数える技のように、二人で交わした大切なルールを思い出すのが鉄板だった。


・ルール①:相手の要求・お願いには可能な限り応える

・ルール②:同レベルのお礼・お返しをする


 これは決して破ってはいけない。そう決めていた。

 また大前提として、これらの条件を満たすには相手の同意が必須となる。今回に当てはめるのであれば、いかに愛奈が魅力的にすぎる色気で(無意識に)挑発していようが、俺が一方的に襲い掛かるなどという愚行はどれだけしたくても同意が得られないからNGだ。


 それを破れば、一方的かつ身勝手に欲望を満たすクズと同義。

 俺達の関係は最悪の形で終わるだろう。だからこそ、火遊びがしたいなら大参事にならないよう最低限は守るべきルールがいるんだ。


 とはいえ……ルールの範疇であればやれる事はある。


「両手で触るのは、ありか?」

「この男は真面目な顔で大胆な確認をするんだかラ、もぅ。んー……ちゃんと優しく扱ってくれます?」

「善処する」

「じゃ、追加で先輩の魅惑のハラキンに好きなだけチューしてOKって事でど――」

「了解した」

「ふへへへ、へんじはやッ。そんな即決する先輩もス・テ・キですよ♪」


 こんなバカっぽい流れでも両者の交渉は成立した。

 筋肉フェチの愛奈は俺の腹を万遍なく撫でながら、ちゅっちゅっしてくる。


「あ♡ 先輩の腹筋、ほんと好き。たまんないです」

「まったく共感できないが雰囲気は伝わる」

「ふふふ、きっと博武先輩があたしのおっぱいガン見してる時と同じ感覚ですよ」


 なるほど。それならわかる。

 などと変な納得をしながら、合意に至った両手で触る権利を俺は行使した。

 嬉しそうに身体を擦り付けてくる愛奈の、シャツを布を限界レベルまで押し上げてるであろうその両の膨らみを、外側からグッと押し込む。


「アゥ、それ触ってるってレベルじゃな、いんぅ♡」

「すまん、触り心地が良すぎて指が離れん」


 というか、指が完全に沈み込むレベルだ。改めて恐るべし、ここまで育った実りの凄まじさよ。


「せんぱいのムッツリすけべッ、後輩殺し」

「先輩の腹筋に胸を押しつけてハァハァしてるフェティシズムには負けるな」


 まったく本当に何をやっているのか俺達は。

 けれど、こいつとのやり取りを楽しんでる自分が間違いなくいるのだ。


 コイツと出会ったあの頃に知ってしまった。

 落ち込んでいたはずのあの頃に得た、新たな歓喜を――。






「あ、先輩の先輩が……大変お盛り上がりに」

「よせヤメロ」

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