番外編まとめ

【選択】目覚めた時、ふと感じたこの感触の正体は――

第4話Aルート:腕にかかる柔らかい重み


「……んん」


 ふと目が覚めた。

 なんだか、昔の夢を見ていたような気がする。


 駅近くの茂みで過激なちちくりあいに興じて、なんとか愛奈の欲望をまぎらわせつつ急いで家に帰って……それから……部屋で……。

 現状を把握と時間を確認するため、暗い部屋の中でもぞもぞと寝返りをうち、枕元へ手を伸ばそうとする。しかし、腕が動かない。

 まさか金縛りか。あまり心霊現象には縁がないんだが……。


 そんなある意味夏らしい考えがよぎり、仰向けの睡眠で凝り固まった首をギギギッと動かしてナナメに動かしてみると、


「むにゃむにゃ……せんぱーい、もう逃がしませんよぉ……」


 愛奈という名の睡眠少女霊が、その全身で俺の動きを封じ込めていた。

 正確にいうと左腕が愛奈と敷き布団の間に挟まれ、右手がタオルケットのかかった愛奈のワキにロックされている形だ。

 ぼーっとしていた頭が覚醒してきたので、どうしてこんな状態になっているのかをようやく思い出す。コイツが俺の寝室に無断侵入してきたとか、そういう訳じゃない。単に、こんな体勢で寝てしまうような事を起きてる時にやってただけの話だ。


 俺達は、そういう関係なのだ。

 ある意味健全で淫猥な、されど妙な居心地の良さを求めたらこうなった。


「……はれ? 博武パイセン……もう起きる時間でうか?」

「いや、まだ外は暗いからな。寝てていいぞ」

「ふぁ……ですねぇ、じゃあ……遠慮なく」


 再び寝入るのを促しておいてなんだが、愛奈がさらにしがみついてくるのは予想外だった。抱き枕扱いされた事で肌と肌が触れ合い、わずかな汗の感触や匂いが伝わってしまう。


 違う、正直に言おう。

 お互いにその辺にあったシャツとロクに隠れてない下着程度しか身につけていない今、異性特有のいい匂いとか後輩のいやらしい豊満ボディから生まれる抗いがたい感触によって青少年の本能が刺激されて仕方ない。

 危うい。あまりにも危うい。このままでは肉欲の第二ラウンドが勃発しかねない。


 こんな時は素数を数える技のように、二人で交わした大切なルールを思い出すしかない。


・ルール①:相手の要求・お願いには可能な限り応える

・ルール②:同レベルのお礼・お返しをする


 これは決して破ってはいけない。そう決めたものだ。

 大前提としてこれらには相手の同意が必須なのだ。今回に当てはめるのであれば、いかに愛奈が魅力的にすぎる色気で(無意識に)挑発していようが、俺が発散したくても同意が得られないからNGとなる。


 それを破れば、一方的に行為に及んだクズと同義。

 俺達の関係は最悪の形で終わる。火遊びがしたいなら、大参事にならないよう最低限守るルールがいるんだ。


 とはいえ……ルールの範疇であればやれる事はある。


「愛奈。……触ってもいいか?」

「んん……? あんなに激しく揉んできたくせにもう復活ですかぁ……。いいですよぉ。代わりに……腕枕してくれたら」

「了解した」

「あと……先輩の僧帽筋を愛でさせてくださイ」


「そういう時のお前の触り方、いやらしすぎるんだよな」

「ふへへ、先輩はもうあたしのテクニックの虜っしょ……?」


 こんなバカっぽい会話でも合意は成り立つ。

 筋肉フェチの愛奈は俺の背中を撫で、俺は愛奈の太腿に触れる。


「あ♡ 先輩の僧帽筋えっちすぎ」

「まったく共感できないが雰囲気は伝わる」

「ふふふ、博武先輩があたしの太腿に感じてるのと同じですヨ」


 なるほど。それならわかる。

 などと、むっちりしたお肉の触り心地を堪能している内に、俺の意識はお互いを感じ合いながら再びまどろんでいく。

 

 あの頃の夢の続きを、もう一度味わうために。

 



 

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