第五話 於屎売
「目が覚めた?」
あたりは暗く、
「う……。」
夜中に敵襲の鐘が鳴り、衛士の助けを待ち、部屋でじっとしていると、賊が押し入ってきて、腹を打たれ、気絶させられてしまった。
日佐留売を、
「おまえ……、
「ほほほ……。覚えていてくださり、光栄ですわ。日佐留売。ほほほ……。」
吊り目の
左手に布を巻いている。
ずいぶん前に、
(あれは……。
八年前だわ……。)
「そうそう、日佐留売のくれた血止めの薬、良く効きましてよ。ほら……。」
と
そこには、親指以外、指がなかった。
日佐留売は目をそらした。
「よく見るんだよ!
これはおまえの弟がやったのさ!
無抵抗のか弱いあたしの指を、三虎が剣で落としたのさ!
そして、あと何刻かしたら、おまえも同じ手になるんだからねぇ……。
ヒャハハハハハハ!」
「ううん……。」
「あら鎌売さま! お久しゅうございます。ご機嫌はいかが?
さっそくですがそこで、日佐留売がボロボロにされるのを見届けて下さいませねぇ。」
於屎売はニタニタ笑って言い放ち、自分の後ろで、
「さっすが、いい錦だぜぇ。」
「これなんて石だ? 名前わかんねぇ。」
「金だ! そいつはオレのだ!」
と宝の山分けにいそしむ賊どもに、
「お前たち! もう良いよ。この
と声をかけた。
だが宝の山に目の色を変えている
「ちっ。」
於屎売は舌打ちを一回し、甘ったるい声を出した。
「ねぇ、この
もう年はいってるけど、髪はつやつや、肌もつやつやだろ?
毎晩椿油やら、胡麻油やら、全身にすりこんでるのさ。
こいつは金持ちで、生まれた時から、上等で柔らかい木綿の内衣しか、手を通したことはない。
あたしらとは違うのさ。
さあ、ひっぺがして、良く確かめてごらん。
足の裏までつやつやしてるのか……。」
日佐留売は冷たい汗をかき、息をひそめた。
「ねぇ、こっちを先にさ?
と於屎売が、宝の山分けに参加せず、奥に座る二十代半ばの男に声をかけた。
さっきから一言も喋らず、中肉中背で、
顔立ちは凡庸に見えたが、目がくちなわ(蛇)のようにギラギラと光る、薄気味悪い
「於屎売の言う通りにしてやれ。宝の山分けは一時中断。
なんせ、この
くっくっく……。」
日佐留売は恐怖に震えつつも、怒りがまさった。
「なんてことを……!」
於屎売を睨みつけるが、於屎売はニタニタ笑いを崩さない。
於屎売の後ろで、
「げへ……。」
「げっへっへ……。」
と
「やめなさい! おまえたち!」
母刀自が大声をあげ、縛られた腕で、足で、土床をはいずりながら、日佐留売の前に出た。
「この子はあたしの娘です。あたしが生きてるうちは、指一本、触らせるものか!
おまえたち、あたしを先に殺すがいい!」
「
「おばあちゃんには用はないんだよ。」
男たちはゲラゲラと笑う。
「いいえ、おまえはあたしの可愛い娘。
あたしより先に死んではなりません。
必ず助けは来ます。
母刀自は緊張のにじんだ声で、日佐留売に言い聞かせた。
(母刀自……!)
日佐留売の目に涙があふれた。
わあ、と小屋の入り口あたりで声があがった。
バアンと入り口の扉が破られ、
「あ……!!」
助かった。
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