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小さな台と加工機が並ぶ作業場に着き、男性は説明を始めた。
「まず加工する宝石についてですが…あぁ、ちょうどそこに加工中の物がありますね。」
男性は小さな旋盤のような台の上に乗せられた、赤い小さな石を手で持ち上げ、目の前に持ってきた。
色合いとしては薄い赤色であったが、一見すれば桜色とも言えそうな優しい色合いであった。
卓上の電灯の光が入り込んで、加工済みの場所がキラキラと光っている。
ダイヤモンドのような内部で何度も反射する美しさもあるが、それとは違う細かい反射の点が見える。
宝石に詳しくない私であっても、その良さは直ぐに分かる程だった。
「…綺麗ですね。この細かい反射も。」
「有難うございます。細かい反射は、中に絶妙な不純物…まぁ金属結晶が取り込まれることで起きるものですね。これ程綺麗な物ばかりではありませんが。我々加工職人は、この宝石を”子供石”と呼んでいます。」
子供石。
最初にパンフレットを貰った時にも異質な名前だと思ったが、改めて聞いても不思議な名称が付いている。
ダイヤモンドのことを金剛石と呼ぶ様に、横文字の宝石に和名がある事自体は珍しくない。
だが、子供石に関してはこれが正式名称なのだという。
海外でも取れるが、各地で名称が違い、加工方法も何一つ同じものは無い。
その上、宝石としては余り重要視されていないので、統一の名称がない。
だから、これ以外に呼びようが無いのだ、と男性は笑った。
「決して有名な宝石ではありませんからね、知らないのも当然です。それに赤色ばかりじゃ無くて、青や、緑もあるんです。」
「それも全て、子供石なのですか。」
「そうです。色では名前を分けていないんです。それに色を除いた見た目もまちまちなので、他の宝石に紛れ込んでいることもありますね。」
ほら、と、男性は幾らかの宝石が並べられたケースを取り出した。
私はそれを受け取り、落とさぬように注意しながら、それを覗き込んだ。
中には、赤に紫、青に緑と、実に色鮮やかな宝石が、白いクッションの上に納められている。
しかし、何よりも私を驚かせたのは、その輝き方が全て違う点だ。
キラキラと光るもの、透き通るように光を吸い込むもの、光を通さずはっきりとした色をもつもの。
まるで一つとして、それらの特徴が被っていなかったのだ。
此処までくると最早、別物の宝石を寄せ集めたようにすら見えるが、男性が言うには元は全て同じ組成の結晶なのだそう。
同じ原石から切り出せば流石に特徴は当然似るものの、切り取る場所によって僅かな差が出るのが面白い所だ、と言う。
「ここまで特性が違うと、加工にも癖がありましてね。何より問題なのは…」
「…これは、破片ですか。」
黄色の浅いトレーに積まれていたのは、割れた石の破片のようであった。
色鮮やかだが、断面が余りに粗い。もっと綺麗に割れるものだと思っていたが、宝石ではそうでもないのだろうか。
そう思っていると、男性は白い眉を少しひそめた。
「えぇ、破片です。子供石は一応決められた基準と加工方法を守って出品されるのですが、その加工に耐えられない石も多いのです。輝きや色合いが不足と判断されると、加工にすら回されませんし…”歩留まり”は、かなり悪いです。」
「…こうなってしまった石は、どうなるのですか。」
「最早、宝石としての価値はありませんから…安く装飾用に卸したり、安価なアクセサリーの代替石として用いられることもありますね。産出の時点で色や形質に難があるものは、砂利と一緒くたにしちゃうこともあります。」
利用価値があるだけまだ良い方だ、と男性は言う。
それだけ形質に難があるならば加工された石の価値は相当なものになると思ったが、石の価値は希少だけでは決まらないのだろう。
元々大量にとれるのに、加工が難しい。
素材としては安価なのだから、ダイヤモンドやエメラルドのような宝石には届かないのか。
その手の知識がなければこの辺は分からないのだろう。
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