また会えたから、また頑張れる 7
遥か遠くで、金色と銀色の魔力が空に上がり、弾けた。
魔物の軍勢の中を突っ切りながら、カイニはそれを横目で捉える。
それと同時に、コロカは5階建ての難民宿泊所の陰を飛翔する『それ』を見た。
一秒間に数回から数百回の斬撃音が響くその戦場で、コロカは戦闘音に飲み込まれないよう、腹から声を出して叫ぶ。
「カイニさん、あそこっす! 過去へと続く時の穴! 空をびゅんびゅん飛び回って……なんすかあれ!? あんなことありましたっけ!」
「見たことないさ! なんだ、あれ……もしかしてSTAGE IIの……!? 過去に飛べる穴がボクらから能動的に逃げる!? なにそれ!?」
「はは。どうやら、道中で聞いてた『絶滅した魔族が進化をもたらした』って話はマジみたいっすね。カイニさんのこれまでのやり方にガチ対策してるっす」
「笑い事じゃないっ!」
魔剣クタチが唸る。
超重量の重騎士が突撃する。
魔族が雪解けのように消し飛ばされていき、豪雪のように継ぎ足されていく。
その間にも、
「カイニさん! 二人での突破を諦めるべきっす! これから俺が敵陣の一番手厚い所に突っ込んで、敵の戦力を引きつけるっす! その間に時の穴を確保するっす! そんで過去まで跳んでこの時間を修正するっすよ!」
「えっ!? いや、それじゃキミが」
「今度こそ! 最後まで! あなたを生かす盾でいさせてほしいっす!」
「……!」
「俺は今度こそ、そう生きて、そう死にたい! それが俺の誇りっす!」
「……分かった。任せる、頼んだよ!」
『今度こそ』。
好きだったカイニを守れなかった男は、そう叫ぶ。
「カイニさん!」
「なに! もう行くんだけど!」
「俺にとっちゃ、カイニさんだけが本物の勇者っす! 何も変わんねっすよ! たとえ俺がどっかで死んだとしても、死んだ後だってずっとそうっす!」
「───」
「カイニさんは気にしてるかもしんねっすけど! ずっと知ってたっすよ、あなたが偽勇者だって! それでも別にいいって思ってたっす! 俺にとっても、キアラにとっても、カエイさんにとっても! あなただけが真の勇者っす!」
勇者と騎士は背を向け合って、別れの言葉を叫ぶ。
「信じて進んでほしいっす! 俺があなたを信じてるから!」
その言葉が何かを残してほしいと、心の奥で祈りながら。
「ありがとう。キミのおかげで、今日まで走り続けられた」
かくして、勇者は跳び上がり。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!」
騎士は、絶望の壁へと挑む。
燃える白雪。
全てが粉砕された水晶竜。
『無かったこと』にされた水晶の城。
破壊の跡で埋め尽くされた平原の中心で、無数の魔族の死体に囲まれ、アオアは抑揚のない語り口で独り言ちる。
「告白。チョウ。ワタシが幼い頃に夢見た姿は。貴方のそれだった」
口にするのは、憧れの話。
1000年前、幼かった頃のアオアが憧れた未来の自分の話。
「恰好良く。俊敏に。鮮烈に。勇者と背中を預け合う戦士。夢に見たあの人を剣一本で守り続ける強き女。ワタシはそうはなれなかった。戦士の才能が無かったから」
アオアは時間を稼ぎきった。
後は、運命がどの選択を愛するか、それが結果を決める。
「貴女もまたワタシの夢。ワタシが夢見たワタシを越えていく女の子」
されどこのアオアがその未来を見ることは、何が起こってもありえないだろう。
「信じて進め、銀麗のチョウ。ワタシは貴方を信じている」
アオアは、徹底的に破壊されていた。
両足、左腕、片目、両耳、内臓の半分が、もう残っていない。
皮膚も2/3が焼け爛れている。
体内の魔法陣は一つ残らず破壊され、肺にも穴が空いているため、もう長大な詠唱を必要とする大魔法は一切使えない。
残った目も、焼けた瞼と目が溶けてくっついてしまっている。
右腕はまだ動かせるが、肉は欠け、骨は折れ、指は三本しか残っていない。
これが、魔王の五覚を含む魔王軍を足止めし、時間を稼いだ代償。
魔族の屍の塔を無数に造り上げ、そうしてアオアは死に体になった。
「千年待った結果の死に様がこれなら。……悪くはない。次に希望を繋げたのなら」
アオアは満足げに笑う。
『これでいい』と言えるのが、アオアという女だった。
アオアは自分を強いだなんて思っていない。
いつも迷っているし、今でも挫けそうになることはしょっちゅうだ。
けれど。
これまでの時間が、胸に宿る思い出が、アオアに立ち向かう勇気をくれる。
かつて出会って別れた大切な人達と、守った人達と、それらの人達の子孫の顔が、アオアの脳裏に次々と蘇る。
皆、笑顔だった。
それは頑張ってきた彼女へのご褒美のような走馬灯。
自然と、アオアの表情が微笑みに変わる。
「皆で守った過去が。何度もワタシに会いに来てくれる。悪くない時間だった」
瀕死のアオアの前に、一人の男が立つ。
それは、異形。
貝を思わせる異形だった。
貝の殻に似た装甲に、貝の出水管を思わせる触手、生々しく気持ち悪い肉の質感。
魔王ズキシと、彼に最初から付き従っていた初期魔王軍幹部メンバーは、その全てが海の底に生息する生物の特徴を持っている。
『
だが。その中でも、この男だけは格が違う。
男の名は、チザネ。
またの名を 『
新王歴1999年、突如現れた魔王ズキシに、己の領土と軍勢の全てを譲り、魔王ズキシの配下に収まることを選んだ───先代魔王である。
その異名は、二列の名前。
すなわち、魔導の時代から1500年を超えて生きる、正真正銘の怪物。
この男を倒したことがある存在は、1500年以上の歴史の中で、魔王ズキシ、勇者カイニ、そして大魔導師アオアだけである。
「言い残すことはあるか、夢追いのアオア」
忌々しげに、寂しげに、チザネは問いかける。
その言葉の裏側に宿るのは、何度も戦ってきた宿敵の死に対する喜びか。
あるいは、また付き合いの長いものが世界から消えることへの虚しさか。
だが、チザネとは違い、アオアの方に感傷など無かった。
アオアは思い出に浸る微笑みをしまいこみ、いつも敵へと向ける、無感情な嘲笑を顔に浮かべる。
「既に終わった負け犬が。
「───」
「私の追い続けた
はぁ、とチザネは溜め息を吐き。
呆れた顔で、アオアの額に足を置き。
力任せに、頭を踏み潰した。
その時、遥か遠くで、金色と銀色の魔力が空に上がり、弾けた。
「……夢想家が。魔王様と
アオアの頭だったものがチザネの足裏につくが、チザネは靴裏にガムがついた時の人間のように、アオアの頭だったものを踏むように地面で擦り取る。
殺してしまえば、もう終わり。未練も無い。魔族はそういう生き物だ。
チザネは『本当の歴史』『この歴史』という概念を、魔王から聞かされている。
なればこそ、本物の刻の勇者に対し、詰めろをかけた。
エバカはハッキリ言えば、キタとダネカのコンビを甘く見ていた。
そして、ダネカはともかくとして、キタはその緩みを見逃さなかった。
エバカはロボトに何らかの執着をしている。
だから怒りで前のめりに攻めてくる。
そして、キタとダネカを甘く見ている。
だから攻め手の構築にまだ緩みがある。
キタは『いい勝負』をさせる気などさらさらなかった。
先の先を抑え、油断が抜け切る前に勝負を決める。
そういう方針で戦いを組み立て、ダネカも使って流れを作る。
キタにはエバカがキタを殺しに来た理由も、このタイミングで襲いかかってきた理由も、どことなくダネカを下に見ている理由も分からなかったが、エバカの心にそういう隙があることは感じ取っていた。
よって、そこを突いた。
キタが囮になり、ダネカが詰ませる、いつもの連携。
「!?」
「爆ぜろ、爆ぜろ、爆ぜろ、炎ッ!」
簡易詠唱三節の炎魔法を乗せた斬撃。
エバカは展開した魔力膜に針をぎっしり貼り付け、炎の一閃を防いだが、剣は防げても炎は防げない。
高位の魔獣も一撃で倒す強力な炎が、エバカを飲み込んだ。
エバカの全身が焼け爛れ、焦げ付き、エバカの膝が折れる。
かに、見えた。
次の瞬間、まるで動画を逆再生したかのように、エバカの体が戻っていく。
ダネカが振り切った剣を構え直す前に、エバカは再生を完了していた。
「なにっ!?」
「
咄嗟に連続で後方跳躍を連打するダネカ。
発射され、ダネカが一瞬前まで居た場所を貫き続ける針の超高速連射。
距離を取りきったところでダネカは黄金の剣を小刻みに振り、針を弾く防御に入って、並行してエバカを観察する。
ダメージが残っていない。
先程まで丸焼けになっていたはずなのに。
倒れるところまで行っていたはずなのに。
不敵に笑むエバカの肩の横辺りでふわふわと浮かんでいる本を見て、キタは反射的に目を見開いた。
「黒い冒険の書……?」
それは、キタにとっては見慣れた装丁の本。
だが、色が違った。
エバカに寄り添う冒険の書は、キタの書のように薄水色のカバーに金と白の装飾が打たれたものではなく、真っ黒に染まりきっていた。
まるで、何かに汚染され、染め上げられたかのように。
エバカが、顔を左右非対称に歪めて笑う。
「『セーブの続きから始める』のさ。
何もかもが訳の分からない、赤髪の美女。
ただ一つだけ、分かることがある。
この女は……キタよりも冒険の書を使いこなしている。
「この本は
黒い冒険の書から黒龍の魔力が吹き出し、それがエバカへと流れ込む。
哄笑するエバカが、翼のように巨大な魔力膜を広げる。
そこに並べられる、無数の針。
魔力膜によって回転と加速を加えられた針が発射され、空気抵抗などというものは無いが如くに飛翔し、銀の雨となってキタとダネカに殺到した。
「ダネカ!」
「ああ! 吹け、風!」
ダネカが風で針を吹き散らすが、弾かれた針は広く広げられた魔力膜にまた掴まり、四方八方から再度キタとダネカに襲いかかった。
「っ」
キタは首を一瞬左右に振って状況確認。
右方1m先の、崩れかけた建物の外壁の柱を斬りつける。
崩れかけた建物が崩落し、針の三割ほどが瓦礫に飲み込まれていった。
「ダネカ!」
それで出来た包囲の隙間に逃げ込むように、キタとダネカが走る。
その後を追うように、魔力膜に飛翔の向きを変えられた針の群れが迫る。
「伸びろ、土!」
ダネカが土の壁を作って止めようとするが、針は次々と土の壁を突破した。
ダネカの舌打ちが鳴る。
短縮詠唱では役に立たず、長い詠唱はもうしている暇がない。
ダネカは一旦足を止め、キタに針が追いつかないよう、黄金の剣と鎧で針の群れを削りにかかった。
剣が針を切り落とす。
針が当たった部分の鎧が、削れ、欠け、時に凹む。
ダネカの目に当たった針もあったが、そのダメージは鎧が引き受けた。
この黄金の鎧には
何の変哲もない針ならば顔に当たろうと首に当たろうと目に当たろうと、ダネカの肌を傷付けることはない。
鎧がそのダメージを引き受けるからだ。
これはそういう魔導効果が付与された鎧である。
特殊な攻撃さえなければ、鎧の耐久値が尽きるまで、鎧はダネカを守るだろう。
「ちっ」
だがこの針は、数、威力、弾速、誘導性能、どれもが申し分ない。
少なくともダネカは、これだけの『強み』を兼ね備えた攻撃を見たことがない。
今は鎧の効果で防ぎきれているが、本来は『どんな頑強な鎧を着ていても隙間を刺す』という悪夢のような攻撃に違いない。
ダネカとて、安穏としてはいられなかった。
針が鎧の耐久値をゴリゴリと削っていっているのが、感覚的に分かってしまう。
少しでも多く剣で斬り落としていかなければ、おそらく鎧は一分も保たない。
ダネカは自分が斬り落とした針が王都店頭の観葉植物に刺さり、ほんの一瞬でその植物を枯死させるを見て、息を呑む。
「毒っ……!?」
この針の群れは、全てが大量生産の針のままではない。
一部には猛毒が塗られている。
それもおそらく、解毒しにくいように数種類に分けて。
今はダネカがキタを上手くカバーできているが、それが間に合わなくなれば終わりだ。魔力膜で軌道を曲げてキタを包囲してから放てば、それで終わり。
ダネカの中で緊張感が高まった、その時。
30mほど離れた地点で、エバカがどっしりと構え、その手の中に針が集まっているのがダネカの目に見えた。
それは、槍だった。
針を集めて作った槍。
魔力によってガチガチに固められ、超高速でジャイロ回転している槍。
ダネカの鎧を一発で貫ける槍。
「げっ」
このままでは、針の群れに足を止められ、大技で仕留められる。
動くなら今しかない。
ダネカは四方八方から飛んでくる針を切り払いなら、自分の判断で後ろにならまだ下がりやすいことに気付き、後方の草地へと跳ぼうとする。
後ろに跳んで、また針を切り払って、そこから飛んで来るであろう針の槍の軌道を見切って、その後にキタのカバーに入る。ダネカはそう考えていた。
だが──
「そこに下がるなダネカ! 横に跳べ!」
「!」
──キタの声が聞こえたから。
何の理由もなくともそれを信じて決め打ちし、ダネカは右に飛ぶ。
同時に、エバカの手元から針の槍が撃ち放たれた。
離れた針の槍が轟音と共に飛翔する。
右に跳んだダネカの全身を細い針の雨が打ち続け、鎧がガリガリ削れていく。
ダネカを狙った針の槍が外れ、先程までダネカの後ろにあった大木に着弾。
針の槍を作っていた魔力が、大爆発を起こし、周囲の草地と土壌を巻き上げる。
そしてダネカは、地面の色に塗られた針が、舞い上がるのを見た。
ゾッ、とダネカの背筋に寒気が走る。
「冗談じゃねえぞ!」
もしも、ダネカが『妥当な選択』をして、あのまま後方に下がり、そこから横に跳ぼうとしていたらどうなっていたか?
草の合間に隠されていた土色の針に、足を貫かれていただろう。
鎧の耐久がそこで尽きたら、足を貫かれて痛みで止まり、針の槍で終わり。
耐久が尽きていなくても、針が靴を縫い止め一瞬動きを止めて、同上。
後ろに下がった時点で積む構築だ。
キタがどんな劣勢の中でも冷静に状況を見る男でなければ、針の存在に気付くことさえできないまま負けていたかもしれない。
恐るべき攻め手の組み立て。
だが何より大きな影響は、どこかに罠があるかもしれないという認識をダネカに刻み込んだことだった。
生死の境界線で敵に綺麗にハメられたという認識は、戦闘者の安定した精神バランスに強烈な揺さぶりを与える。
『今のはヤバかった。またあるかも』という認知が、不安定を刻み込む。
ダネカはもう、迂闊に走ったり跳んだりできない。
どこに針が仕込まれているか分かったものではないからだ。
「ダネカ……! くっ、使う、か……?」
『
キタの脳内を強制的に火事場のクソ力状態に移行させ、燃え尽きる蝋燭のようなブーストをもたらす刻の勇者の切り札。
これを使えば、ダネカがキタをカバーする負担が減り、キタもダネカに合わせて攻めることもできるかもしれない。
しかし。
「……いや、ダメだ。ここで使ったら、最悪あの青い魔人の
絶体絶命だが、ここはあくまで前哨戦。
そしてキタは大将首である。
過去に飛ぶ前に反動が大きな技を使ってしまえば、後で苦労するのはキタではない。カイニ、あるいはチョウだ。
その事実がキタに軽挙妄動を選ばせない。
動きが鈍ったダネカを針の群れが抑え、ダネカが鈍った分だけ余った針が飛翔し、キタの頭上より降り注ぐ。
キタの迷いを突くように。
銀色の、雨が降る。
「!」
"チェックメイト"。
エバカは、口の中で密かに呟いた。
"間に合った"。
チョウは、口の中で密かに呟いた。
放たれる、魔導散弾の四連射。
豪快で緻密な高速弾が、キタの頭上の針を尽く粉砕する。
そしてひらりと、舞い落ちる羽のように、そのメイドはキタの横に舞い降りた。
見慣れた右銃左槍による的確な援護に、キタはほっと息を吐き、ダネカはへっと鼻を鳴らす。
「キタさま。チョウは遅刻だったでしょうか」
「……いや。最高のタイミングだったよ」
「光栄です。また、キタさまをお守りします」
「頼んだ」
チョウの参戦にエバカが様子を見ている間に、チョウは右の銃を連射した。
今度は正確に狙いをつけずに、面で制圧するように。
たまらず、エバカはダネカを襲わせている針の群れも戻し、防御に徹して後退しつつ一旦距離を取っていく。
針の群れから解放されたダネカがキタらの下へ向かってくるのを見て、チョウは酷く複雑な感情を顔に浮かべた。
敵意、軽蔑、失望、後悔、懺悔、そして尊敬や好意の残骸。
ダネカを突き放す言葉を反射的に口にしそうになったチョウだが、その肩にキタが優しく手を置いた。
肩から伝わるキタの体温が、ほんの少しだけ、チョウを冷静にしてくれる。
「……キタさま。チョウは……」
「気持ちだけなら、過去に戻ってもいいと思う」
「え?」
「過去に戻って歴史を変えて、犠牲を出してまで自分の失敗や後悔を無かったことにするのは、きっと間違ってる。でも心だけ、気持ちだけ、過去に戻すのなら、それはきっと悪いことじゃない。それはただ、思い出に浸ってるだけだから」
「心だけなら……」
「昔に戻ってやり直すことはできない。でも、気持ちだけあの頃に戻るだけなら……そうしたら、いつだって、
「……」
「チョウは僕よりずっと優しいから、きっと『そう』在れるって信じてる」
はぁー、とチョウは溜め息を吐く。
呆れと、納得と、たっぷりの『好き』が詰まった溜め息だった。
だがキタには、呆れの溜め息にしか聞こえなかったかもしれない。
こういう考えの人だから。
こういう言葉を選ぶ人だから。
許し、受け入れ、共に在る人だから。
『ああ、好きだな』と、チョウは思うのだ。
「そうですね。チョウは今だけ昔のチョウに戻ります。ダネカさまを信頼し、キタさまに甘えて……お二人の敵を全て打ち倒すだけの、昔のチョウです」
「甘えるのはせめて戦いが終わってからにしようね。昔のチョウは戦闘中でも突然甘えてくることあったからね」
「……あっ、あれは! ……その……いえ、申し訳有りません。キタさまがあんまりにも弱くて、どこかに行ってしまいそうだと思ったら、怖くなってしまって」
「ははっ、僕が弱いせいで本当に心配されっぱなしだな」
チョウの内に渦巻く、複雑でごちゃまぜの気持ち。
それら全てを飲み込んで、チョウは『この歴史の』ダネカを見つめる。
「キタさまの命じるままに。チョウは、あの日のように戦いましょう」
「うん、頼むよ」
チョウの弾幕を理解してきたエバカが立て直し、再度攻勢の構えを始める。
と、同時に、ニカッと笑ってダネカが二人に合流した。
黄金の戦士ダネカ。
銀麗奴隷チョウ。
剣士キタ。
これで、三人。三人揃った。
「キタ、チョウ! 違う歴史の奴らだからって、連携適当になってねぇだろうな!」
「まさか。試してみるかい? 僕は構わないよ」
「お二人の命じるままに。チョウはお二人の忠実な奴隷ですから」
並び立つ三人。
構えられる三人の武器。
黄金の剣。
青い双剣。
右銃左槍。
相対するエバカが、歯を剥き出しにして笑い、表情を左右非対称に歪める。
「三人になったからって、なんだい?
かくして、再演の鐘は鳴る。
失われたはずの『明日への靴』の形が、蘇る。
「集え黄金、俺の綺羅星! 『招集』ッ!」
「双剣同調。右にダネカを、左をチョウに」
「鎧装」
新たな黄金の鎧が飛来し、古鎧と入れ替わるようにダネカの全身に装着される。
キタの手元で初歩の初歩の魔法が発動し、双剣に二人の魔力が仄かに紐付く。
チョウの全身を銀色の魔力が渦巻き、メイド服の上に銀の装甲が展開される。
かくして、『明日への靴』の三人は揃った。
奇妙な形で、心を揃えて。
「靴の邪魔すりゃ、蹴っ飛ばされるぜ! さっさとそこをどきやがれッ!」
「キタさま、指示をお願いします」
「呼吸をズラすんじゃないぞ、ダネカ、チョウ。行くぞ!」
降り注ぐ、銀の雨。
走り出す、三人の冒険者。
三人の魔力が針に巻き上げられ、金色と銀色の魔力が空に上がり、弾けた。
今ひととき、永遠の絆が結ぶ黄金の輝きが、此処に蘇る。
果てしなく、絢爛に。
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