黄金の戦士ダネカの過去回想 4

 俺は黄金が好きだ。

 俺の金の目、金の髪も好きだ。

 鎧も金、剣も金にした。

 ゴールデンだぜ!


 『黄金は永遠の輝き』って言葉も好きだ。

 ずっとずっと残ってくれる、永遠の黄金が好きだ。

 黄金みたいなもんは、大体好きになっちまうな。


「あ、あの……チョウは奴隷なので……何も旅行にまで一緒に連れて行っていただかなくても……身の程は弁えているつもりです」


「いいんだよ、チョウ。君はもう僕らの仲間なんだから」


「行くぜ! 最近噂のステーキを食いに!」


 チョウが仲間に加わった。


 ……が、何故か、チョウはメイド服を着ていた。


 なんで?


「何故メイド服……?」


「チョウは形から入るタイプです。チョウは奴隷です。それ以上には思い上がりたくないのです。御主人様達に仕えるメイド、そうお思いください」


「僕と昨日他の私服いっぱい買いに行ったのに」


「あ、あれは……綺麗だから外では着られません!」


「服の意味」

「外で着ないならどこで着るんだよオラオラ」


「へ、部屋で……鏡の前で着ます!」


「キタ! 女子だ! 女子力が高い!」


「うん。まあそれなら、外で着るのに躊躇いもない服も今度買いに行こっか」


「おっ、おかまいなくっー! チョウはお二人にお仕えする奴隷です!」


 チョウが入ったことで、俺達には新しい移動の選択肢が入った。


 俺が旅の荷物を全部持って、チョウがキタを背負って走る。


 こいつで全力でかっ飛ばせば、俺達は馬車より速く移動できる!

 名付けて『黄金疾走』だ!

 俺達の体力の限界までしか移動できねえけども。

 討伐依頼だと戦闘前に体力使い果たすから論外なんだけども。


 俺達はこれで、移動料金無しで結構な範囲を移動可能になったってわけだ!


「ふざけんなよチョウ! 俺にキタを背負わせんかい!」


「ダネカさま。一つ忠言をお許しください」


「お? なんだなんだ、好きにしろ」


「ガラスの食器とキタさまをダネカさまに持たせるのは不安なのです。雑なので」


「こいつ~~~~~!!!!!」


「やめなよダネカ」


 すたこらさっさ、すたこらっさと、一時間から二時間くらいでたぶん100kmくらい走り切って、俺達は辺境の村に辿り着いた。


 おお。すげえ。村の入口の時点で肉が焼ける匂いがする。


 これが……ミハギ先輩が言ってた、ステーキで村おこし中の村!


「例の……ワイバーンステーキの村!」


「ダネカ、先にお店に行って席取って来てくれない? やっぱチョウの靴紐の結びがちょっと甘かったみたいだ。このままだと帰りには靴ずれ起こしそう。チョウもほら足出して、ブースを結び直すから」


「も、申し訳ありません……こんな靴、履いたことがなくて……わ、私を捨て」


「捨てないよ」


「……チョウは、迷惑をかけたくありません……」


「どんどん迷惑をかけてくれ、遠慮なく。もう仲間だろう?」


「おいキタ! 新人ばっか構ってると俺が拗ねるぜ!」


「ダネカは僕の彼女か? さっさと店で席取ってこい!」


 冗談の通じないやつだ。

 嘘。冗談の通じるやつでいいね。


 店に入って、席取って、二人が来るまでウキウキで待つ。

 いやあ、やっぱ美味いって噂の流行りの店に初めて入る時はワクワクすんな!

 お、来たな。

 始めるか、ワイバーンステーキのマーケティング、略してステマってやつをな!


「───というわけで、火を吹くワイバーン種は自分の体内に油を溜め込んでる。その油に火を着けて、人で言う唾を吐く感覚で火を吐くんだ。そんで、自分にその火が当たっても死なないよう、肉は高熱でも凝固しない。だからそのワイバーン種のステーキに火を付けると、体液が燃え上がるのに、肉はレアのままなんだぜ。そういう、『生に近い燃え上がる肉』を出すレストランがここなのさ!」


「すごい……! ダネカさま、めっちゃ早口です!」


「僕は昨日も聞かされたなこれ」


 へっ。

 ミハギ先輩から話を聞いた時からずっと来たかったんだよな、三人で。

 やっぱ美味いメシは皆で食ってこそだ。


 うめー。

 うめー。

 うめー。


「やっぱダネカの舌は信用できるね。ダネカが美味い美味いってオススメしてきた料理が外れだったことないもんな」


「美味しいです、ダネカさま。流石です」


「へへっ……そんな褒めるなよ、奢りたくなるだろ。いや奢るわ。好きに食え!」


「お、気前が良いね。すみませーん、このデザート三つ!」


「き、キタさま! デザートまでいただくのは流石に貰いすぎです!」


「馬鹿野郎がよぉ! デザートは違う味三つ頼んで一口ずつ分け合いだろうが!」


「! ダネカ、最高の提案だね。チョウはデザートどの味にする?」


「えええ!?」


 食って、クエスト、寝て、食って、依頼、食って、食って、討伐!


 感じるぜ、俺とキタとチョウの伝説が、今まさに始まってる、そういう感じを!






 チョウは、キタが事前に厳選しただけあってマジで強かった。


 俺達のPTは、あいつを加えて一気に飛翔した。


「やるじゃねえかチョウ! そんなメイド服でよく動けんなぁ!」


「動きやすい服を選びました! あと、汚れてもいい服ですので」


「二人共、駆除対象の魔獣は残り一体! 気を抜かずに!」


 強いだけじゃなくて、楽しい女だった。


 二人より三人の方が楽しい、って話。

 俺は眉唾に思ってたが。

 ありゃマジだな。


 日々はあっという間に流れてく。


「暇になっちまったぜ……今日の俺はクエストを受けず珈琲を飲む男……」


「ダネカさま、ダネカさま」


「おうなんだ新人」


「呼んでみただけです」


「おっ……キタ! こいつかわいい!!!!!!」


「そうだね」


「キタさま、キタさま」


「なんだい?」


「いつもありがとうございます。心が救われています」


「どういたしまして」


「なんで俺の方は呼んでみただけなん???」


 三人で笑った。


 笑いながら、どこまでも突き進んでいった。


 今日も、明日も、明後日も、最高。絶対そうなる。そう信じてた。


「朝ですよダネカさま、起きてください」


「ゆーらーすーなー……何だお前こんな夜明けも全然って時間に……」


「昨晩受けたクエストの指定時刻忘れたのですか」


「……? ……。……あ。夜明けと同時に出るクリアフェアリーの捕獲!!!」


「早く装備に着替えて表に出てくださいね。出立から3時間で目的地です」


「キタ! キタはどうした! あいつ妙に寝起き悪い時はあるから……」


「キタさまならチョウが背負ってるこのバッグの中です」


「えっ」


「徹夜でギルドに納付する税金の書類を書いて、寝ないで仕事に入るつもりだったみたいなので、睡眠薬入りのコーヒーを差し入れました。とても嬉しそうな顔で無警戒に飲んでいたので正直胸が痛みました。気持ちがしんどいです。しかしこれで現地到着までキタさまを寝かしてあげることができます。行きましょう」


「…………………………お前…………………………」


 おもしれー女。

 俺がこんなに『俺の伝説で暴れてくれ』って思った女は初めてだぜ、へへ。

 これでカエイさんくらい乳があったらなあ。


 歳のせいとはいえ完全にまな板だぜチョウ。

 哀れ乳。

 胸部の虚無。

 全国がま泣いたベストセラー。

 脱脂粉乳でもここまで脂肪無いってことはないと思う。


「ダネカさま、ダネカさま」


「おう、なんだ新人」


「たまにものすごくイラッと来る目でチョウを見ていますが、何を考えておられるのですか?」


「お前が……信頼できる仲間だなって、思ってるんだぜ」


「そうですか」


 いかんいかん。

 ちょっと勘付かれてる。

 こんなんだから俺はキタに『傷付いてる女の子には近付かないでね君無神経だから』みたいなこと言われるんだ。

 反省しとこう。


 チョウはキタを宝物でも背負うみたいに背負う。

 扱いが雑なのに丁寧だ。

 荷物みたいにバッグに詰め込んで背負ってんのに、割れ物みたいに扱ってる。

 ……ん?

 扱いが雑なのに丁寧?

 キタから俺に対する扱いじゃねえかこれ。


「ダネカさま、聞きたいことがあったのですが」


「おう、なんだ」


「何故、キタさまを相棒としたのですか?」


「んー……ほぼ、一目惚れだ!」


「ひとっ……一目惚れ!? ふっ、ふしだらっ、やらしいですよっ!」


 なんか変な勘違いされた。


 道中ずっと言い訳するハメになった。


 なんで恋愛感情があると思われるんだよ、おかしいだろ。


 許さねえぞこのシルバー獣人メイドもどきめ。






 チョウはおもしれー女だったが、それ以上に強え女だった。

 そいつが加わった結果は、すぐに出た。


「B級、ランクアップー! うおー俺らぁやったぞオラァー!」


「ぱちぱちぱち」


「ダネカとチョウのお陰だ。二人共、改めてありがとう!」


 俺、12歳。

 キタ12歳。

 チョウ10歳。

 『おこさまPT』とか揶揄されてた俺達は、B級PTに昇格した。


「ギルドマスターのマメハのババア、俺らがガキだからって普通の昇格ラインよりたっけえライン用意しやがって……! とっくにB級になってたはずなのによ!」


「ダネカさま、どうどう、落ち着いてください」


「昇級はやっかみも受けるから、子供だらけのPTをすぐに上に上げすぎると大人の悪意で潰されやすいんだよ。逆にギルドマスターに冷遇されてるって噂が広まれば、同情の声も多くなるだろう? あれはマメハさんの気遣いなんだよ」


「悪意で俺達が潰れるわけないだろ! 大英雄ダネカ様を何だと思ってんだ?」


「キタさまの枕」


「流れるように昨日寝ぼけた時の僕をいじるのをやめろっ……!」


「キタさまの照れる顔、まあまあ良いですね」


「ケッケッケ、メイドに翻弄されてやんの」


 仲間を増やして、チームを強くして、上に行く。


 最っ高の気分だった。


 仲間と一緒に上がり調子ってのは楽しいなぁ、キタ!


「では、昇級のお知らせも受け取ったことですし、部屋の掃除をしましょうか」


「え?」


「え?」


「ダネカさまの部屋も……見るに堪えないレベルではあるんですが」


「おいコラ」


「キタさまの部屋は……もう……なんというか……汚い・汚くない・散らかってる・散らかってない通り越して、『あぁチョウはこの人の部屋を掃除するために生まれてきたんだね』と思ってしまったレベルでした」


「見る人を洗脳する部屋とかどうなってんだオメー」


「いやあ、忙しくしてる時期に『僕しか生きてない部屋なら別に良くない? 誰にも迷惑かけなくない?』みたいな意識が出てきちゃうとダメだね」


「チョウはキタさまの部屋を掃除するために生まれてきたのです」


「バカ! 目を覚ませ!」


「あ、掃除終わったらチョウが晩御飯作ります。リクエスト聞きますよ」


 だけど、まあ。


 大人の悪意ってやつに関しちゃ、俺よりキタの方が分かってたな。






 その日、ギルドに向かった俺とチョウは、自然な流れで大人に囲まれた。

 いや、マジで自然だった。

 なんかするっと話しかけられて、途中まで全然違和感なくて、ギルドの隅っこで椅子に座って、大人に囲まれても全然何も思わなかった。


「ダネカ君、チョウ君。今日は君達にとても素晴らしい話を持ってきたんだ」


 俺の対面に座った男は、俺とチョウになんか交渉を始めた。

 顔は……忘れた。

 名前……なんだっけ。


 ああ、そうだ。

 ジャクガだ、ジャクガ。

 商人みたいな服した男。

 どうでもいい男過ぎて記憶に残んねえ。


「実は二人を、我々の陣営にスカウトしたくてね。あ、キタ君というのはいいよ」


「あ?」


「だってほら、君達の中で、分かりやすく彼だけ足手まといだろう?」


 だけど、そいつが提案してきた舐め腐った話だけは、よく覚えてんだよなあ!


 ざっくりそいつの提案をまとめる、と。

 俺達の下で冒険者やったらもっと儲かるぜ!

 みたいな話だった。

 99%覚えてねえや。


「収入は今の十倍になると思う。魔王のおかげで優秀な人材が減っているからね。騎士団も傭兵団も施設兵団も、優秀な子供とのコネは誰もが欲しているところだ。君達のような優秀な子供の冒険者は、売りつけると高額になる商品なんだよ」


「へー、そりゃ豪勢だな。あんた金持ちなのか?」


「それはもう。だけどそれ以上に、君達が素晴らしいのさ! 10歳かそこらでA級相当の力を持っている少年少女なんてそうそういないとも! 君達がまだC級だのB級でうろうろしてるのは、お荷物を一人抱えていてそれがネックになってるからさ」


 キレそう。

 ガチめに。


 チョウは黙りこくって、俺の後ろで縮こまっていた。

 チョウはまだ奴隷時代のトラウマに縛られていて、大人に迫られると萎縮する。

 最初はキタとしか話せなかった。

 いつからかキタとも俺とも話してくれるようになった。

 今じゃギルドの優しい先輩とも話してるのを見る。


 そんなチョウが、大人に囲まれて、威圧されて、昔に戻ってやがる。

 あ、なんだ。

 クッソ、イラついた。


 いっけねえ。

 キタのこととチョウのことでダブルでキレてる。

 俺の手、俺の手、勝手に腰の杖剣に向かって伸びるな。


「チッ」


「カネの話だけじゃない。ダネカ君とチョウ君の冒険者としての知名度も上がる。名誉に繋がる依頼も多く来るようになるだろう。装備だって我々が大いに支援できるさ。君達はもっともっと強くなれるんだ。悪い話じゃないだろう? いや、いい話しかない! 君達の先輩も既に何人かはうちに来ていてね」


 そうだ。

 俺が守るしかねえ。

 口が回るキタは、今いねえんだから。

 冷静に、冷静に。

 クールオブクール。

 ゴールデンオブゴールデン。


「いや、我々の傘下のPTのどれかに加わるというのが嫌なら、君達は『明日への靴』のままでもいい。そのまま形式上うちの傘下に入ったということにすればいいさ。ああでも、君達に寄生しているあの無能は、当然追放してもらいたいがね」


 無能?


 キタが?


 あっ。


 うん。


 死ね。


「ははっ」


 俺が自分でびっくりするくらい、冷たい笑い声を出したのを覚えてる。


 ジャ……なんとかっておっさんが椅子ごと後ずさった。


「俺が、キタを追い出して冒険者続けるとでも思ってんのか? ああ?」


 あっ、剣抜いちゃった。

 まあいいか。

 ぶっ殺す。


「だ、駄目ですダネカさま! キタさまがまた苦労なされます!」


 あ、チョウ。いたのか。


 ……あ。おお、冷静だよ俺は、冷静だ冷静、冷静の化身っすよ。


「随分おめでてえ頭だな、おっさん。とっとと出てけ」


「……交渉は、決裂かな?」


「あったりめえだろうがぁ!」


 俺は思いっきり、俺とおっさんの間にあったテーブルを蹴り上げる!

 あ、やべ。

 まあいい、今の俺は冷静だ!


 座ってた椅子を転がし、そいつを踏みつけ軋ませて、おっさんに至近距離からガンつけて、怒鳴るように言ってやる。

 世界の真理ってやつをだ!




「どんなカネより! どんな栄光より! どんな強さより! 相棒の方がずっと大事だ! キタの価値が分からねえ節穴野郎なんかに命は預けられねえんだよ!」




 っしゃ。

 言ってやったぜ。

 フゥ~。


「……後悔するぞ。無能を抱え続けたPTは決して大成しない」


「キタを追放したら絶対俺は後悔すんだよ、とっとと失せろ、できれば死ね」


「くっ……」


 おっさんが逃げていく。

 へっ。

 どうだキタ。

 お前の真似はできねーが、今日は俺がチョウを守ったぞ。

 後で採点してくれ。


「チョウ、どうだ。これでも俺が気遣いのできない無神経な男と思うか?」


「周りが見えてない人だなという評価は極まりました。最高ですねダネカさま」


 ん?


 うわ。

 ここギルドの中だったわ。

 人いっぱいおる。

 先輩がそこらじゅうに居るわ。

 さっきの発言全部聞かれてたなこれ。

 視線が!

 生暖かい!

 やめろ!

 そんな目で……大英雄を見るな!


 恥ずかし。

 逃げよ逃げよ。

 行くぜチョウ!


「あ」


 チョウを連れてギルドを飛び出そうとした、その時。


 ギルドの入り口近くで、めちゃくちゃ照れた顔をしたキタと顔を合わせた。


 はーん。全部聞いてたなこいつ?


 殺してくれ。


「……メシ行こうぜ、キタ」


「ん。今日は僕が奢るよ、相棒」


 こいつめ!


 こいつめ!


 奢られてやるよ。


「ふふっ」


 何笑ってんだメイドもどき!

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