第154話 無職の少年、危険がいっぱい

 遠くに赤やだいだいの輝きが見える。


 禍々しい風景を眺めつつ、湯に浸かる。



「ふぅ~。朝からお風呂っていうのも、乙なものねぇ~」


「お風呂……なんですかね、これって」


「細かいことは気にしなぁ~い」



 自然に湧いていたお湯。


 とはいえ、入れるようになるまでは一苦労。


 昨晩、適温となるように、姉さんが試行錯誤した成果である。



「あの山のどれかが、サラマンダーさんの住処なんですかね」


「ん~? アタシも訪ねたことは無いからねぇ~。あのスケベ──もとい、オーガ兄なら分ったんでしょうけど」



 あの赤いの、あんまり見つめてると目が痛くなってくる。



「あの光ってるのって、何か分かりますか?」


「ああ、アレは溶岩、つまり溶けた岩よ。地中にある場合はマグマって呼ぶらしいけど」


「……え? 岩って溶けるんですか?」


「とっても高温ならね。当然、触ったりしちゃ駄目よ。ま、熱過ぎて近づけないとは思うけどね」


「へぇー」



 またしても危険な代物らしい。



「この辺りには、どんな魔物が住んでるんですか?」


「んんん~? 何が居たんだったかしら……取り敢えずドラゴンは居るわね。溶岩にも入れるみたいだし」



 岩は溶けても、ドラゴンは溶けないのか。


 ドラゴンって凄いんだな。



「さてと、昨日は山歩きばっかりだったから、今日は別の場所に行きましょうか」






「凄い……」


「そうでしょ。久しぶりに見に来たけど、やっぱり不思議な気分になるわ」



 長く続いた茶色い幹と緑の葉が途切れた先。


 白い幹と赤い葉の群れが姿を現した。


 まるで、此処だけが別世界のようだ。



「銀の森って云うんですって。大森林地帯の奥、此処だけでしか観れないそうよ」



 銀色には見えないけど、この違和感を表現したかったのかな。


 赤色は好きじゃない僕でも、不思議と見入ってしまう。



「こういう場所を見付けられるのも、冒険の醍醐味なのよ」



 姉さんは色々な場所を見知ってるんだなぁ。


 だからって、冒険に対しての魅力までは感じないけどね。



「人族は世界樹に遮られて来れない場所だし、荒らされることも無かったみたいね。以前見た時のままだわ」


「人が荒らすんですか?」


「珍しいモノを見付けると、持ち帰ったりするらしいからね。自然は自然のままが一番綺麗なのにね」



 まあ、それもそうか。


 棲みついてる動物や魔物が、態々住処を壊したりはしないよね。



「弟君も気を付けてね。珍しいからって無暗に触ったりしないこと」


「はい」


「他と違う色味の植物や鉱石は有毒だったりもするから、危険でもあるしね」


「ゆうどくって何ですか?」


「毒があるって意味よ。って、そもそも毒は分かる?」


「悪くなった食べ物とかは違いますか?」


「もっと広い意味で、身体に悪影響を与えるってことかしらね。石だって空気だって、毒を含んでる場合があるのよ」



 他とは違う色味のモノも危険なのか。


 見掛けたら離れたほうがいいのかもしれない。



「次は安全な場所に行きましょうか」






 見渡す限りの水。


 川……とは違うのかな。



「此処は?」


「世界最大の湖よ」


「みずうみ……」


「そ。要は巨大な水溜りみたいなものね」



 こんなに沢山の水があるなんて、信じられない。


 世界中で使われてる水は、此処のモノなんだろうか。



「さらに! 水の精霊が住んでるらしいわ」


「なるほど」



 世界樹にドリアードさんが住んでるぐらいだし、此処に水の精霊が住んでいても不思議じゃない。


 巨大なモノに住む習性があるのかも。



「丁度いい具合に拓けてるし、今日は此処に泊りましょうか」


「分かりました」


「水浴びぐらい大目に見てくれるとは思うけど、水を汚さないように気を付けましょう」



 水浴びしたら、水が汚れちゃうような……。


 怒られないといいんだけど。



「昔、この辺りは魔物が沢山襲ってきたらしいわ」



 周囲を見渡してみるけど、魔物どころか動物の姿すら見当たらない。



「今は何も居ませんね」


「そうね。精霊の力で寄せ付けないようにしてるんじゃないかしら」


「もしかして、此処って精霊の住処の中なんですか?」


「いいえ。住処は水中って聞いてるわ」



 水の精霊なら、水中でも息が苦しくなったりしないのかな。



「にしても、本当に動物すら居ないわね。これじゃあ、狩りのしようがないわ」


「持ってきた食料は、まだ十分にありますし」



 できれば狩りはしたくない。


 そういう意味では、動物が居ないのはありがたい。



「ま、そうなんだけどねぇ」



 何だか残念そう。


 楽しみにしてたのかな。



「静かね~」


「そうですね」



 音が遠い。


 風すらも拒んでいるんだろうか。



「そうそう、一応言っておくけど、普通の生水は危ないから飲んじゃ駄目よ」


「……どれなら飲んで大丈夫なんですか?」


「例えばこの湖の水なら、精霊の影響で害は無いだろうけど、川や池の水とかの場合、一度沸騰させたりしないと病気になったりするわ」


「お湯にすれば大丈夫なんですか?」


「ちゃんと沸騰させなきゃ駄目よ。ブクブク泡が出てから少し待つこと」



 水すらも危険なのか。



「試しにやってみましょうか」


「え? でも、此処の水は大丈夫なんですよね?」


「念の為よ。自然は見た目ほどに安全じゃないわ。自分の身は自分で守ること」





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