第12話 無職の少年、寂しがり屋の友達

 精霊の住処からの帰路。


 姉さんとアルラウネさんは、まだ何か言い争ってる。


 あんな状態でも仲はいいんだよね?


 声を背に、玄関の扉を開く。


 ベチャリ。



「ンッ⁉」



 顔面を何かで覆われる。


 突然の事態に、どう対処すべきか理解が追い付かない。


 反射的に顔に手をやり、現場から少しでも離れようと後退る。



「どしたの、オトートクン? って、顔! こら、くっついちゃ駄目ぇー!」


「弟君⁉」



 二人の慌てる声が聞こえる。


 顔面や手から伝わる感触は、水を詰めた袋のよう。



『離れろ!』



 一際大きい音。


 ブラックドッグが吼えたらしい。


 ブルリと震えたかと思うと、顔から何かが剥がれ落ちて行く。



「プハァッ」


『ビックリ!』


「もう、顔に貼り付いちゃだめじゃないの」


「そだよー! 息ができないじゃんかー!」



 ようやくの空気を肺へと取り込む。


 涙目になりながら、床へと視線を向けた。


 プルプルした半透明な薄水色をした物体。


 いや、この子は友達の――。



「住処に居ないと思ったら、勝手に上がり込んでいたのね」


『イナイ、サビシイ!』


「まったく、スライムといいオーガといい、勝手にひとんちに上がり込んで」


「エーッ、ウチも⁉」



 足元からこちらを見上げてくるのは、魔族のスライムだった。



『ダイジョブ?』


「びっくりするし、苦しいから、もうしないでね」


『ワカッタ、ガンバル!』



 理解してくれたのかどうなのか。


 一際高く跳ね上がり、胸の辺りに来たところで抱える。



「遊びに来たの?」


『キター!』



 チラリと姉さんを窺う。


 すると苦笑を浮かべつつ、頷いてくれた。



「明日は出掛けるんだから、あんまり疲れるような真似しちゃ駄目よ?」


「分かりました」


「あ、じゃあ、ウチも行くー!」


『遊びたいポー!』



 アルラウネさんの腕の中から、コロポックルも同行の意を示して来た。


 僕の腕の中にはスライムが居る。


 ならば代わりにと、妹ちゃんが受け取りに行く。



「えへへ、ちっこくてカワイイねぇ~」


「それじゃあ、行って来ます」


「行ってらっしゃい。気を付けてね」



 当然とばかりに、今度はブラックドッグも付いて来る。


 姉さんとアルラウネさんを残し、遊びに出掛けることにした。






 世界樹の上は広い。


 でも何も無い。


 枝、こぶ、葉、幹があるだけ。


 地上とは違い、木登りなんて真似ができる高さや太さでもない。


 必然的に、やれることは限られるわけで。



「何して遊ぶー?」


「隠れたり、走ったり、後は……」


『飛ぶポー』


『ムリ、トベナイ!』


「飛べるのはコロポックルだけだよ。僕たちにはできないから」


『残念ポー』


「でも、コロポックルも走ったりできないよね?」


「そっか、そうだね」



 コロポックルは飛べるけど、移動速度はとてもゆっくり。


 歩くのよりも遅いぐらい。



『ハネル!』


『そうだポー。跳ねるのがいいポー』


『跳ねる』



 何故か、三体ともが跳ねるのに賛成みたい。



「跳ねるって、ジャンプするってことだよね?」


「だろうね」


「競うってこと?」


『ダナ!』


『負けないポー』



 みんな、大きさが違い過ぎる。


 到達点を競うよりかは、地面からの距離を比べた方が分かり易いかな。



「枝か幹のそばに行こうか」


「どして?」


「高さを競うにしても、何か基準があった方が分かり易いんじゃないかな」


「そう、なのかな? 分かんない」



 首を傾げるオーガちゃんを連れ、適当な枝のそばへとやって来た。



「地面からの高さで競おうね」


「分かったぁ」


『バッチコイ!』


『余裕ポー』


『承知』


「僕が見て判定するから、みんなで跳んでね」



 みんなが視界に収まる距離まで移動する。


 視線はみんなの足元へ。



「3の合図で一斉に跳んでね。じゃあいくよ、1、2、3!」



 わ、凄い!


 断トツでスライムが高い。



『イチバン!』


『まだまだポー』


『ナント⁉』



 コロポックルが追い上げる。


 いや、あれは跳ねてるんじゃなくて、浮いてるんだ。



『ソレ、ヒキョウ!』



 遂にはスライムを抜き去りフヨフヨと浮かび続ける。



「あーん。勝てるわけないよぉー」


『無念』



 これは結局、勝敗的にどうなるんだろ。


 そもそもコロポックルは跳ねるよりも飛んでいるわけだし。


 なら一番はスライム、二番がブラックドッグ、三番が妹ちゃんかな。



「コロポックルの反則負け。一番はスライムだね」


『何でコロ? 何でコロ?』


『ヤッター!』


『生意気』


『ケルナ、ワンコ!』



 ブラックドッグが前足でスライムをつついている。



「生意気だぞ、えいえい!」



 それを真似てか、妹ちゃんまでつつき始めた。



『ウラヤマシイ?』


『悔しいポー』



 結果は明白。


 それにしても、スライムってあんなに高く跳ねられるものなのかな?


 ブラックドッグだって、体長以上を跳んでたのに。


 追いつきそうなぐらいの高さだった。


 魔物じゃなく、魔族だからとか?


 その後はスライムの跳ね方をみんなで真似したりして、日が陰るまで遊び耽っていた。





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