第10話 無職の少年、お勉強タイム②

 小休憩を挟み、勉強はなおも続く。



「次は精霊について詳しく話していきましょうか。かつては妖精と呼ばれていたわけだけど」


「何で呼び方が変わったんですか?」


「人族が勝手に付けただけよ」


「え、それだけなんですか?」


「そ。妖精の存在は一部の人族や魔族や魔物以外には秘匿されていたわ」


「? 存在を知らない人たちなら、そもそも呼ぼうとはしないんじゃ……」


「噂でも流れたのかもね。加えて世界樹や魔法の封印なんかがあったわけだし。超常の存在を少しでも既知としたかったんじゃないかしら」


「何かテキトー過ぎぃ!」



 妹ちゃんがプンスカ怒っている。


 自分のことじゃないのに。



「精霊にも種類があるわ。これは分かる?」


「あ! えっとね、木とか水とかでしょ?」


「属性ね。全部言える?」


「うんと、えっと、木と地水火風、かな」


「じゃあ、ブラックドッグは何属性かしら?」


「えぇっと……? ワンちゃんは……黒?」


「魔法だったら7属性、光闇地水火風聖、があるわよね。精霊は6属性、木地水火風無、になるかしら。魔法に合わせるなら地水火風の4属性になるわね」


「じゃあ、ワンちゃんは無属性ってこと?」


「動物の精霊だからそうなるわね」


「属性が無いって可哀想じゃない?」


「勝手に分類しているだけだから、可哀想とかはないわよ」


「そうなの?」


「そうよ。そして精霊には上位と下位が存在しているわ」


「ドリアード!」


「この世界樹の上位精霊はドリアードなわけだけど、他は分かるかしら?」


「えぇっと、パス! オトートクンに任せた!」


「地はグノーシス、水はウンディーネ、火はサラマンダー、風はシルフ、です」


「よくできました! じゃあ動物の精霊は分かる?」


「分かりません」


「ま、これは別に覚えなくてもいいかしら。どうせそうそう会えないし」



 何だか扱いが雑だった。


 精霊って偉い存在なんじゃ?



「今までのは上位ね。つまり、他の精霊は下位になるわ」


「ブラックドッグも?」


「そうよ。ただし、この子はちょっと他の個体とは育ちが違うから、力の強さは上位に近いけどね」


「凄いねワンコ! 強いんだね!」


「ちなみに、人族との混血は、上位精霊だけが可能よ」


「オネーチャンのオカーサンは土の精霊なんだよね?」



 ズキリ。


 胸が疼く。



「ええ。機会があれば紹介してあげるわ」


「んー」


「何よ、嬉しくないの?」


「だって、怖いとか厳しいとか、オネーチャンがよく言ってたよね」



 言われてみれば確かに。


 父親に関しては嬉しそうなエピソードが数多く語られるけど、母親は全然聞いた覚えがないかも。


 うっ、やっぱりあんまり考えると駄目だ。


 言葉が記憶を刺激する。


 溢れ出しそうになるのをこらえる。



「あー、じゃあ止めておきましょうか」


「う、うん」



 あっさりと案を引っ込めてしまう。


 グノーシスさんってそんなに怖い精霊なのかな。






「さて、今の世界を形作った精霊だけど、人族からは嫌われているわ」


「人族は何にも分かってないね!」



 精霊とよく遊んでるから、不愉快になるのは仕方がないかな。



「それと言うのも、彼らの信仰対象は神であり、魔物や魔族、そして精霊の存在そのものを認めてすらいないからにあるわ」


「存在を認めていないって、どういうことですか?」


「神が創造したモノじゃなく、世界に紛れ込んだ異物として忌避してるのね」


「よく分かんない~」


「確かに、魔物や魔族は魔界と言う別の世界から来た生き物なのよ」


「そうなんですか?」


「えぇ。父が行ったことがあるって言ってたわ」



 再びの疼き。



「何それ凄い! ウチも行きたい!」


「強い魔物がウジャウジャ居たそうだけどね。それでも行きたい?」


「うぅ、でもウチの故郷でもあるんだよね?」


「正確には、先祖がってことになるでしょうけどね」


「どんなとこなの?」


「空も大地も、一面が■い世界って言ってたわね」


「気持ち悪そう……やっぱ行かなくてもいいかも」


「どのみち、魔界へは魔王の力が無いと行けないはずよ」


「おぉ、魔王様! 一度でいいから会ってみたいなぁ~」


「今代の魔王は穏健派のようね。目立った動きはないみたいだし」



 魔王。


 かつては魔物を狂暴化させて、人族を襲ったって聞いたけど。



「良い魔王とかって居るんですか?」


「居たわね。それもとびきりの人が」


「人? 魔族じゃなくて、人族だったんですか?」


「その話は、またの機会にしましょう」


「あ、はい。分かりました」


「コホン。話を戻しましょうか。一方で、精霊はこの世界の生き物に違いないわ」


「じゃあじゃあ、人族の勘違いってこと?」


「そうなるわね。魔力を蓄えた存在、自然や動物が精霊の母となり、精霊を生み出しているのよ」


「この木もそうなんだよね?」


「えぇ。世界樹も精霊の母だけど、アタシたちが住んでるこの木以外は分身わけみでしかないわ」


「? どゆこと?」


「お母さんはこの木だけってこと。他の世界樹は子供みたいなものね」


「へぇー、知りませんでした」



 この世界樹だけが特別大きいわけでもない。


 他と同じぐらいのはず。


 スケールが大き過ぎて、理解の範疇を超えてる。






「人族の多くは神を、つまりは神を信仰する教会を寄る辺としているわ」


「キョーカイって、ケンネェの住んでるところじゃなかったっけ?」


「そっちは魔法協会ね。と言うか、アイツよりも年上じゃないの。何でいつも姉呼ばわりしてるのよ」


「ウチよりも頭が良いから!」



 賢姉けんしさんのことらしい。


 けど今の理由に関しては、理解が及ばなかった。



「教会は騎士団をようしているわ。人族の最高戦力ってところかしらね」



 無視して話を続けることにしたらしい。


 町で会った人たちのことかな。



「だから、アタシたちが警戒すべきは、人族の騎士団、そして、魔物ってことになるわね」


「でもでも、世界樹を登ってなんて来れないよね?」


「普通に考えればね。でも、騎士の中に妙な力を持った者が居たわ。聖都の奥に潜んでる存在の力も未知数だしね」


「つまり、どゆこと?」


「ここが戦場になるかもしれないってこと」


「そんなこと、あり得るんですか?」


「可能性は常にあるわ。だから備えておかないとね」



 パチン。


 ウィンクが飛んで来た。



「明日から、アタシが鍛えてあげるわ」


「「え」」



 これ、そういう話だったの?


 いやでも、強くなれるなら、悪い話じゃない。


 いずれ再び、相見あいまみえるのだから。





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