015 誰もひとりでは生きていけない

「よし、行こう」


「あの赤鬼どうするの? ロリコンスライム」


「だーッ!! おれはロリコンじゃないっての!! スライム娘なのは間違いないけども!!」


「どうでも良いでしょ。で? どうするの?」


「……連れていくかぁ」


「そう言うと思った」


「なんでだよ?」


「ロリスラは甘いから。どこまでも」


「なら鬼畜にでもなれっていうのかよ。そっちのほうがゴメンだ」


 そういう会話を交わし、ロリコンスライムことおれは赤鬼の元へ向かう。


「オマエ、おれの仲間になる気ない?」


 異世界転生16日20時間22分30秒目。おれは二度目の人生で始めて仲間、基、友だちをつくろうとしていた。

 友だちは良いものだ。でも友だちと遊んだ記憶はあんまりない。あんまりないのに、友だちはほしい。不思議な気分だ。誰もひとりでは生きていけない、なんて言葉どこかで聴いたね。


「……ならせてもらおうか。小粋だ」


「コイキング?」


「……。なんだ、その弱そうな生き物の名前は。おれは小粋だよ」


「だってこいき、と来たら、ングが続くでしょ。まあそんなことどうでも良いんだけど」


「オマエの名前は?」


「我が名はタイラント。いつしかこの世界を粛清する者だ」


 めちゃくちゃ低音ボイスで言ってやったが、いかんせんスライム娘の声では迫力に欠ける。某ロボットアニメの俗物嫌いな女傑じょけつの声が出せれば良いのに、と思ってしまう。


「お、おう……」


 ほらドン引きされた。でもオマエが引くのは違うんじゃない? あれだけ必殺技叫んでいたヤツがおれに憐れみの目を向けるなよ。泣くぞ?


「なんで涙目になるんだ?」心配そうな表情だ。


「いや……ふざけてタイラントとか名乗ってたらそれが本名になっちまったからな……。小粋、良い名前じゃないか。ミリットも良い名前だ。対しておれ、タイラント。涙そうそうだよ」


 後悔ばかりの人生だ。もう人間ですらないのに後悔をまたつくってしまった。なんだよ、本名タイラントって。完全にアホじゃない。


「あの、そういうのどうでも良いから早く行かない? お姉ちゃんと早く会いたいんだけど」


 最近の若者はドライだなぁ。慰めてもくれないのか。だけど慰められたところで問題解決はしないんだから、ミリットみたいに行動あるのみという態度は正しいのかも。


「分かったよ。お姉ちゃん探しの旅に出よう」


「ならおれが運転してやるよ。ついてこい」


 小粋が粋なはからいを見せてくれるらしい。そうか。小粋は粋が入っているのか。良い名前だなあ。

 そして一行はひっくり返った噴水を乗り越えて、小粋の愛車にたどり着く。

 黄色く丸っこい外装。4人乗り。排気ガスは地球の寿命を3年は縮めるだろう。

 つまりこういうので良いんだよってヤツだ。


「行こう。あれだけ暴れたから当局が目をつけてるかもしれねェ」


 たし蟹。地面に亀裂走らせたりロケット・ランチャーぶっ放したりと暴れすぎた。この場合損害賠償とかどうなるのだろうか。

 と小市民らしく賠償におびえていたら、ペダルが踏まれた。

 なお、こういうので良いんだよ(車のこと)のタコメーターは150キロを差していた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る