013 ”スライム娘タイラント”VS”赤鬼???”

 身体がいつもどおりひんやりし始めた。男の絶叫を聞きながら、ロケット・ランチャーを回収する。


 ……。まさかうまくいくとは思わなかった。辛いもの食べたときの感覚があったからもしや、と思って思い切り息を吐いてみたら火炎放射器。おれそのものがキル・ストリーク状態だ。スライム娘の身体って割となんでも有りなんだなって感じました。はい。


「チクショウ……てめェ、やる気なんだな……!!」


 ひさびさに本能が語りかけてきた。コイツは危険だと。手元にあるロケット・ランチャーで吹き飛ばしてしまえと。でもこれ安全装置がかかっているみたいで撃ち方分かんないんだよね。引き金引いても弾出ないし。

 そんなわけで立ち往生。戦闘狂か大物みたいに男が復活するのを黙って見ているしかなかった。


「おおおおおお……。よし、復活してやったぞ?」


 アスファルトがひび割れ、男の姿が変怪していく。いまの彼はまさしく『鬼』。日本古来の赤鬼のごとくツノを生やし、魔術かなにかで金棒を取り出す。金棒が地面に触れた。触れただけで地面に亀裂が走った。


 え? おれこんな怪物と喧嘩するの? 


「ふん。早着替えすればおれに敵うとでも? それに似合ってねえぞ、そのツノ」


「けッ。てめェみてーなスライム娘と違って変化自在ってわけじゃねェんだよ。個性があるって言ってほしいね」


 え? なんでおれこんな強気なこと口走っているの? ビビりすぎてハッタリのレベルが上がっているのか?


「個性、ねえ。そういう変身ってのは個性のねえ野郎がするものなんじゃないのか?」


「上等だゴラ。死んじまえば個性もクソもねェことを教えてやるよ」


 ま、まさか本気で殺そうとはしないでしょう……。こんなエッチなお姉さんを金棒でぶん殴ろうなんてもったいない真似するわけが──。


鬼子母神きしもじんッ!!」


 瞬間、瞬間だった。外国人選手がフルスイングしたときのホームランボールのような速度で、おれの頭にビリビリと砂嵐が走ったのは。


「ロリスラ!!」


 異世界転生してから16日20時間2分33秒目。おれは史上最大の危機を迎えていた。


「スライム娘には“打撃”も“斬撃”も大した効果を示さねェ!! スライムが即座にダメージを相殺してしまうからだ!! だが、そんなインチキ臭せェモンスターにも弱点はある!!」


 弱点……? やべえ。頭が朦朧とする……朦朧? おれは身体の90パーセントくらいが削られても意識はしっかりしていたぞ? なにかがオカシイ……。


「それは“コア”に直接ダメージを与えちまうことだ!! そのザマだと頭部にコアがあるようだな!! おら、もう一発くれてやるよッ!!」


 やばい。次これ喰らったら死ぬかもしれない。だけど目の焦点が合わない。どうすりゃ……どうすりゃこのピンチを切り抜けられるッ!?


重羅刹じゅうらせつ!!」


 なんだよその中二病臭せえ必殺技は……。こっちは頭がじんじんして動けねえんだぞ? クソッタレ……!!


「……な、なにが!?」


 男の身体に、あのスライム娘のスライムが絡まる。それらは金棒を振り下ろす寸前で硬化し、身動きが取れなくなってしまった。

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