012 これから燃えるゴミになるヤツと会話するメリットあるの?

 ウィークリー・マンションの前には広場がある。噴水も置かれており小洒落ている。そんな広場にて、敵だと思われる男が立っていた。

 ロケット・ランチャーを抱えていて、あからさまな殺意を隠そうともしない男。邪悪な笑みを浮かべており、彼はやがてゲラゲラ笑い始めた。


「ミリットちゃん! おれの声に聞き覚えない?」


 ミリットの顔が青ざめる。なにか因縁があったのか。しかし中学生ほどのミリットと20代後半ほどの男の間になんの問題があったというのか。


「……ロスさん」


「そ! 君とSNSを通じて家出の相談に乗ってた男だよーん。これで意味分かった?」


「……。転生者が集まるマンションを見つけ出して、そこの704号室に入れって指示を出した。でも奇妙なのがひとつ。あれだけ親身だったのに転生者が集まるウィークリー・マンションの場所は知らなかった。つまり──」


「おれァ端からある転生者をぶっ殺したかったんだよ。そこで情報通なミリットちゃんに目をつけたわけだな! 政府の機密情報を抜き出して、ことしいくつの転生者を受け入れたのかを割り出したミリットちゃんならこんなの朝飯前だろ?」


 ……。会話についていけないんだが。とはいえ会話についていかないと危険な気がする。転生者ぶっ殺すとか言っているし。だからおれは、「時間稼ぎしといて」とミリットへ耳打ちする。情報整理のためだ。


 まず、ミリットは男に家出の相談をした。しかし男の狙いは中学生を自宅に泊めることでなく、転生者狩りだったわけだ。もっとも転生者がどこのマンションに住んでいるかはおそらく国家機密。まとめて殺すには住処を割り出すことが絶対条件である以上、男は途方に暮れたはずだ。


 だから男はミリットに接触した。ミリットは政府の機密情報すら抜き出せるスーパー・クラッカーらしく、おれの住んでいる=転生者の住んでいるマンションは一発で割れたのだろう。


 704号室とわざわざ提示した意味。それは案外分かりやすい。マンション名を聞いた男はすぐさまこの建物の近くにある鉄塔へ移動し、高台からミリットがたしかに704号室へ入っていくのを確認したのであろう。


 ……いや、ただ確認するだけならば、もっと低い階の住民でも良かったはずだ。すなわち、


 だが、どうやって部屋番号を割った? 男はそもそもこの安っぽい居住空間も知らなかったのに。


 ここでおれは思い出す。ここはロスト・エンジェルス。魔術と技術の国であると。たとえば魔力を察知できる魔術があれば、部屋番号を強引に割り出すことができる。


 というわけで納得したおれは、住居を守るためにちょっとした必殺技を使うことにした。


「完全に蚊帳の外食らっちゃったけど、ここらへんで話に加わって良いかな?」


「これから燃えるゴミになるヤツと会話するメリットあるのか?」


「んー……」


 瞬間、おれは空気を吸い込んで口から吐き出した。その酸素はすでに身体の中で炎となっており、まるで火炎放射器のように男の顔を焼き払う。


「これから燃えるゴミになるヤツと会話するメリットあるの?」

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