011 ライターを食べろ駄犬

 ちゃんと言えたじゃねえか。ならば姉と会ってしまうのが一番手っ取り早い。


「ミリー、姉貴の居場所分かるのか?」


「一応」


 携帯電話の画面を見せてきた。友だちと位置情報を共有し合うアプリだ。ま、こんなアプリとは無縁な人生歩んできたから使い方なんてわからんがな!! ……泣けてくるなあ、今宵の月は。


「……。使い方分かんないの? ほら。ノースのエレファントモールにいるでしょ?」


「どうせ陰キャの引きこもりさ……。お嬢ちゃんも来られると良いな。上へ、おれたちの世界へ」


 ぞぉ……と鳥肌を噴出させるミリット。いますぐここから逃げ出したほうが良い気もするが、同時にこのスライム娘は戦力に成りうる。ならば連れて行ったほうが良いのであろう。


「悪いけどカネねえんで、タクシーとかは使えないからな~。しかもバスや電車の路線図も分かんないから調べておいてや~」


 そう考えた頃には、名前も知らぬスライム娘は靴を履いて外へ出る準備をしていた。なんだかんだ頼りになるかもしれない。


 氷点下4度。家にあった上着すべて着てきたが、それでも生まれたての子鹿のごとく脚がガタガタ動き回る。寒すぎて脳の回路が停止しそうだ。


「すごい格好……」


「し、仕方ないだろ? これでも寒いんだ。チ、チクショウ、な、な、なんでスライムの身体は、は、ひんやりしてるんだ?」


 ミリットがなにかを差し出した。変哲のないライターだ。


「食べれば?」


 いまおれって人権適用されているよね? それなのにライター渡されて『食べろ駄犬』? こんなにも寒いとヒトの心だって冷たくなるんだね……。東北のヒトたちは暖かかったのに……。


「……。スライム娘は普通食事を必要としない。人間から魔力を抜くためにヒトを捕食することはあるけど。じゃあライター食べたらどうなると思う?」


「か、身体が温まるってことかい……?」


「そういうこと。ライターに入ってる燃料でぽかぽかにはなるんじゃない?」


 物は試し。男は度胸。でもいまおれスライム娘。だからためしてガッテン(?)。

 ライターを飲み込んでみた。噛み砕く歯はつくろうと思えばつくれるが、理由もないのでそのまま呑み込む。

 刹那、身体が温まった。信じがたいほどスマートに端的な解決をしたのだ。


「スライム娘ってすごいなあ。食べたものの中身を吸収してしまうと。ってことはさ、スマホ食べたらめちゃくちゃ頭良くなるんじゃね?」


「今度やってみれば? 私としては、お姉ちゃんに会うことが第一優先」


 そういやそうだった。ミリットの年齢は中学生くらいなので、太陽の沈まったロスト・エンジェルスをひとりで歩かせるわけにもいかない。もはや年齢も思い出せないおれは、それでも大人としての役割を果たそうとする。

 そんなときだった。


「よォ!! そのガキは入用でね!! 悪りィが姉妹ごっこはここでおしまいだ!!」

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