010 "なんとかしてやろう"

 もっともおれは笑い事でなかったりする。限りなく人間に近いフォームは手にしたが、その姿は女性そのものだ。高身長で巨乳の女性、現在の顔だと20代前半といったところ、


 でも、この子が始めてゆるく笑ったとき思った。なんとかしてやろうと。だってそう本能が語りかけてくるのだから。


「名前は?」


 おれはTパックつきの安っぽい紅茶を彼女へ渡す。


「……ミリット」


「もしかしてお姉さんいるでしょ」


「うん」


「名前はメリットだな」


「……。すごい。全部言い当ててる」


 種も仕掛けもあるマジックを明かそう。

 まずミリットは家を見渡すことに一段落ついた時点でイマドキ若者(?)にふさわしく携帯電話を弄くり始めた。そこでおれは、申し訳ないがスマートフォンの画面を一瞥した。ミリットは有機ELより美しい画面にて、『メリットお姉ちゃん』という名前の者とメッセージを交わしていた。内容はお通夜かよと思うほど静まり返っていた。


「お姉ちゃんのことは嫌いか?」


「嫌い」断言した。


「なんで?」


「才能ないくせに努力ばっかして、MIH学園の主席をあと一歩のところまで追い詰めたから」


「MIH学園?」


「ロスト・エンジェルス最高峰の学園だよ。知らないの?」


「ミリー、ど忘れしていただけさ。誰にだってそんな日があるだろう?」


 真っ赤な嘘です。転生してから16日19時間38分49秒間、始めて知りましたとさ。


「ミリーってなに?」


「愛称がないと嫌じゃないか。ただ呼び捨てくらうのも嫌だろ?」


「ふーん。じゃお姉さんはロリコンスライム、略してロリスラで」


 カウンターには弱いぜ、おれ! 涙はオマエには似合わないと言われた気がしたので、目元から零れ落ちそうになるスライムを目で払う。


「んで、ミリー。姉貴のことが気に食わないと?」


「違う。姉の所為で調子ぶっこいてる親が気に入らない。あのヒトら裏金払ってでも私をMIH学園へ入学させるつもりなんだよ」


「ほーへ……」


 裏金で入学する生徒なんて日常茶飯事だ。前世の日本でもしばしばニュースになっていたし。

 しかし実力がふさわしくないのに高い期待を背負って入学させられるなんて、ミリットにとっては生き地獄に違いない。


 なんとかしてやりたいなあ……。


「なに?」


「なんでもないさ」


 不意にこぼれ落ちる独り言。前世の親の顔すら思い出せないスライム娘は、赤の他人のためにカロリーを消費しようとしていた。


 とはいえども、なにをすればミリットの問題が解決するかって話になる。親御さんのところへ行ってジャパニーズDOGEZA? いや、それじゃ娘さんをくださいっていう意味合いになってしまいそうだし……待てよ。なんでミリットは姉と連絡を取っていた?


「ミリー、なんで姉貴と連絡してたの?」


 単刀直入に訊いた。訊かないことは後々トラブルになってしまう。それにここでメリットとミリットの関係性を洗っておいたほうが安牌だろうとも思う。


「別に……・なんだって良いでしょ」


「良くないから訊いてるんだよ」


 珍しく真剣な顔になったおれに対して観念したような態度で、「こんなときでも……頼りになるのはお姉ちゃんだけだから」と答えた。

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