008 いや年寄りが自殺する呪われたユートピアだよ!!

「カマイタチでもくたばらない……ッ!?」


 もうね、生き残っちゃうんですよ。身体がスライムだから。だって考えてみ? おれこの前頭部以外全部吹き飛ばされたけれど、別に痛くはなかったんだよ? ただ頭まで吹き飛んだら殺されるから死にたくねえとか鳴き声発していただけで。

 それにさ、おれ気がついちゃったわけよ。あのあと子どもみたいに雨の水で遊んでいたから知ったわけなんだけどね。そう、スライムは基本的に消滅しないことにさ。

 おれは上半身を動かし、下半身に合体させる。唯一の欠点として着ていた服(クラリスから渡された)はビリビリに破かれたが、身体をよりスライムっぽく変怪させれば問題ナッシング。


「ッたく、仕方ェな。ビリビリとグニュグニュどっちが良い? 選ばせてやるよ」


 ちなみにこれはハッタリだ。スライムと言えば状態異常を与えてくるものもいるが、いまのおれにそんな器用な真似はできない。……グニュグニュは味わいたいな。最後のムスコの吐息が感度何千倍なのだろうか。


 そんな恐怖として君臨するおれと対峙することを諦めたのか、それとも警察がやってくるのを察したのか、少女は一目散に逃げ始めた。


「だからおれは悪いスライムじゃないって……」


 ちょっと切なくなったおれへ、クラリスが声をかけてくる。


「合格よ。早いところ市民登録済ませなさい。この状況だと捕まるのは確実に貴方だから」


 なにかを試されていたらしい。おれはやや怪訝な表情になるも、タブレット端末に腕の部分に生やした指を使って名前を記す。『タイラント』と。


連邦警察LASPDだ!! スライム娘を逮捕する!!」


 警察が数十人突撃してきた。怖い! 怖いよ! 怖いんだって!! アサルト・ライフル担いで現れるなよ!!


「いえ、この子は市民登録を済ませました。人権が適用される上に、この子タイラントは一切の攻撃活動をしていません。逮捕すべきなのは、彼女を狙った怪物狩りです」


 クラリスが全部説明してくれました。やったね! セーラムという老人がこの国の国防軍上級大将だから、同時にクラリスへも結構な地位があるのだ。


「おい、カメラを調べろ!!」


「了解です!!」


 寸のところで市民になったのが効いているような気がしないでもない。クラリスやセーラムの態度を見る限り、おれは存在しているだけで逮捕の対象になるからだ。ぷるぷる……ぼく、悪いスライムじゃないのに……。


「さあ、座りましょうか。タイラントさん」


 クラリスになぜか引っ張られ、おれは騒然となる場にて席に座る。


「ああ、そうそう。まだ貴方の仕事を説明していなかったわね」


「仕事?」


 働いたら負けかなと思ってる、を貫き通せないの?


「ええ。ガキはいじめしてビッチは売春、政治家は汚職働いて年寄りは自殺する国でお仕事体験よ」


「それはつまり?」


「ロスト・エンジェルスに巣食う悪党どもを潰して。まあ大半は転生者かしらね」


 クラリスは歌でも歌うように軽く言い放った。

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