007 ガキがいじめこいたりビッチが売春したり政治家が汚職働く世界?

 とっても素敵な場所に転生してしまったようだ。いや、前から分かっていたさ。ここロスト・エンジェルスはディストピアみたいなものだとさ。ガキがいじめしたりビッチが売春したり政治家が汚職と賄賂で腐ったりするようなユートピアではなかったわけだよな。


 それを知っていたおれは立ち上がり、銃弾を取り出す。手がフライパンになるような感覚で意思を向けてみると、その人生始めて見た本物の弾はじゅ~わと溶けたわけなんだよね。


「銃弾を溶かしたッ!? コイツやっぱり──!!」


 この前の少女とは違う少女が現れた。おれは首を横に振り、大作映画でも見終わったように清々し表情で……叫ぶッ!! 


「おんどれぁ!! わてがスライム娘だと知ってピストルを向けたんよな!? だったらカエシをしてやらねェとなぁ!!」


 どこの方便だよ。

 そうしてこうして周りの状況を確認しておこう。

 みんな伏せている。当たり前だよね~。日本じゃこういう光景あまりないけれど、海外では銀行強盗とか多そうだもの。良く訓練されていますね。ばっちり!

 職員は警察機関へ電話をかけているようだった。当然白昼堂々と発砲した少女を容疑者として……いや待て。おれっていまロスト・エンジェルスの市民じゃないよな? この場合どちらを悪人に仕立て上げる? 

 困ったおれはクラリスの方を向く。彼女はそっぽを向いた。ともに闘ってくれよ、我が友よ……。

 でもまあクラリスの態度も予想の範疇だ。彼女はまだおれのことを信じていない。理由は単純で、信じるに値する出来事が起きていないからだ。


 そういうわけで現状確認終わり。喧嘩の時間です。


「──だったら、これでどうだッ!!」


 少女は杖を取り出す。たぶん魔術によるものだろう。160センチほどの少女よりやや長い、曲がっていて円体のなにかがくっついている、割とよく見る(フィクションの世界では)代物だ。


 対しておれ。ほとんど姿かたちは人間と変わりなくなった。指も5本あるし、身体も強い力で押し込まれない限りちいさなスライムが取れてしまうこともない。ただそれだけ。


「はッ! 小賢しい! 貴様その程度でわてを倒せると思ってんのかい!!」


「なにッ?」


「わてはタイラントやぞ!! この名前は……えーと、なんだ──「暴君って意味ね」華麗にクラリスが意味を説明してくれた。良い子だなあ。


「なら……ッ!!」


 半ば冗談混じり、さらに言えばハッタリで誤魔化そうとしていたおれだったが、さすがに碧い閃光がその少女のもとへ集まりだしたら拍手するほかない。


「あの方お強いの?」


「私の次くらいにはね」クラリスは適当な態度だ。


「へ、へえー……すこしは腕に覚えがあるようだな?」


「腕に自信なきゃスライム娘の討伐になんて出向けない!! まさかオマエ、自分の危険性を理解してないのか!?」


 怒られちゃったよ、といたずらな笑顔を浮かべる。そんな異世界転生15日と13時間35分47秒目。

 少女は杖を振る。カマを人外が振り回したらこうなるのだろうと、上下半分にスライドされたおれは考えていた。

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