006 (暗黒微笑)
人間の女子の身体(液状のスライムがひんやりし過ぎていて風邪引きそう)を手に入れたおれこと『タイラント』は、なんでこんなところに血税をかけるんだよってくらい
「どう? ロスト・エンジェルスに来て15日目だっていうけれど」
「15日と13時間22分34秒経過してるけどね」
「魔術でもないのにそんな正確? 現時刻とぴったりだわ」
「なんてことのない特技だよ。競馬の騎手は超正確な体内時計を持ってるって言うし、めちゃくちゃ珍しいわけでもないさ」
おれの特技。それは超正確な体内時計を持っていることだ。昔、スマホとかを持っていなかった頃でもおれがいれば現在の時刻が分かった。あのときはそれだけで持て囃されていたなあ。戻りたいなあ。
「……。なにとぼけた顔してるの?」
「いやあ、昔に戻れたら良いなあって」
「私はまったくそう思わないけれど」
真逆の意見がいまここでぶつかった。ディベート・バトル、勝つのはどちらだ!!
……といっても、おれは口喧嘩なんて勝った覚えがないけどね。もちろん普通の喧嘩も。中学から高校まで全部帰宅部だった者を侮らないほうが良いよ?(暗黒微笑み)
「なにその笑み。気色悪いわ」
こ、コイツ。イタイ腐女子を馬鹿にしやがった──!! 恐ろしい!! 軽蔑の目つきで見下した!! SMクラブの女王様という仕事はクラリスのためにあるのかァ!!
とまあふざけていないで、おれはクラリスに、「行こうよ」と言いエレベーターへ向かう。クラリスはだいぶ不機嫌そうな表情になったが、彼女がいなければおれの市民登録が円滑に進まないので仕方なくクラリスはここにいるといったところだ。
「市民登録ってなにするの?」
「普通だったら簡単よ。前世の国名と世紀を答えるだけ。それができたら転生者として貴方はロスト・エンジェルスの市民、もとい、国民になれる」
「普通じゃなければ?」
「スライム娘になって転生してきたヒトなんて前例がないから……まあだいぶ時間がかかるんじゃない?」
「面倒だなあ。生きるのって」
「死にたくないとか言ってた貴方なら、これくらいは我慢できるでしょ」
……。そうだよな。おれ、死にたくなかったんだよな。最初は未完成ながらスライム娘になれてもう死んでも良いとか盛り上がっていたけど、結局痛みこそなくても身体がどんどん削られていくのを見て、本気で死にたくないと思ったんだよな。ま、ひとりの人間(?)の意志なんて案外簡単にひっくり返されるんだろうな。
そう考えていると5階に到着した。クラリスはベルを鳴らし、担当の者がやってくるのを待つようだった。
「お祖父様がどこまで手を回してくれたかによって決まるわね……」
「セーラム上級大将が?」
「ええ。言い換えると手を回しそびれた場所へは……貴方の今後を一気に変えてしまう問題が詰まってるはずよ」
「そりゃまた難しいなあ──」
矢先、おれのもちもちした肩に銃弾が刺さった。
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