003 おれは恐れられているらしい……ぴえん(死語)

「とにかく転生者であることは信じよう。しかしスライムの転生者か……」


「美・少・女!! 美・少・女!! K・A・W・A・I・I!!」


「珍しい形で現れるものだな……。スライムと言えば大陸で恐れられるモンスター。まさかこの国でそのモンスターと出会うとは……」


「お・っ・ぱ・い!! お・し・り!! ×・×・×!! ××××──」


 放送禁止用語が出てきたところでおれは老人に殴られる。親父にもぶたれたことないのに!! ……いや、何回かあったか。野球やっていたときとかひどかったな。


「下品な単語羅列して満足か? 悪いが、主を転生者だと信じたのは私だけだぞ? モンスターが人権を勝ち取るのはとても難しい。なにか案はあるのか?」


「あるわけないでしょう。スライム娘とはいえ美少女になれたからもう死んでも良いくらいだし」


 清々しい笑顔を浮かべる。老人はぽかーんと口を開ける。

 異世界にやってきて15日目。いつときでも優秀に働き続ける体内時計のおかげで、その所為で苦い思い出ばかりつくってきた。それに比べればいまの状況は天国とすら言える。


「お主がそれで良いのならば良いのだが……いや、しかしその実力流してしまうにはもったいない。分かった。私がなんとかしよう」


「なんとかできるんです?」


「これでもこの国ロスト・エンジェルスの上層部に掛け合うだけの地位はある」


「やったねたえちゃん生き残れるよ!!」


 老人に抱きつこうとするが、この粘着質な身体に触れられるのを嫌った彼の張り手によって、おれは背中から転げる。


「いたッ……くねェ?」


「余計な真似をするな。行くぞ」


 まず特別ガタイが良いわけではない老人の張り手で倒れ込むのが謎だし、倒れ込んだのに痛みがまったくないのも謎だ。

 しかし老人がなにかを語ってくれるわけではなさそうなので、おれは黙って老人についていく。

 その道すがら。


「セーラムお祖父様。ごきげんよう」


「おお、クラリスか」


 老人、もといセーラムは孫娘とたまたま遭遇したらしい。クラリスという少女だ。金髪碧眼の人形のような出で立ち。こういうので良いんだよ、と言いたくなるような白人少女である。


「……こちらの方は?」


「転生者じゃな。なぜかスライムだが」


「スライム……!」


「海外ですこし冒険していたクラリスならば分かるだろう? このスライム娘がどれだけ恐ろしいか」


 そんなに褒められると照れちゃうなあ。え? 怖がられている? ぼく悪いスライムじゃないよ?


「……分かります。しかも人語を話すとなれば知能の高さもうかがえる」


 嘔吐物でも見るような目つき。残念なことにこの目つきで興奮できる性癖はないので、ただ辛いだけだ。……(生きていれば)同年代なのであろう少女にこんな目つきされたら、最前の美少女化の喜びもどこかへ吹き飛んでしまう。


「ただ……転生者にしては珍しく素直だ。心をへし折る必要もなくをわきまえている」


「そうですね……。最近はロスト・エンジェルスを舐めてる転生者も増えましたからね」


 物騒なお言葉ばかり聴こえてきます。異世界転生が楽園への片道切符だって言ったヒトをぼくは決して許しません。


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