002 転生したら美少女(ただしスライム娘)だった件

「ならばいまは人間にとって敵であると?」


 やべえ。このヒト絶対おれのこと敵だと思っている。怖いなあ。正直振り向くのも怖いけど、勇気ひとつを友にしておれは振り向く。


「この姿を見ても敵だと思いますか? まだ人間みたいな身体には程遠いのに」


 老人がそこにいた。口調からして察してはいたが。

 男前。白髪はちっとも禿げる気配がない。ヒゲまで生やしている。


「たしかにな。だが、あだなす可能性も否めまい」


「んー。ならなにをすれば信用を勝ち取れますか? 人間に近いフォームになれたのにここで撃破されちゃ辛いだけですよ」


「転生者であればすぐ疑念は払えるのだがなあ」


「転生者。…………。ああ転生者だ、おれ。建築作業をしていて、熱中症になって死んでしまったんですよ」


「証拠はあるのか?」


「証拠?」


「ロスト・エンジェルスは定期的に転生者を受け入れている。それがこの国にとってさちあることだからだ。そして転生者はなんらかの新魔術を使うことができる。さあ、魔術を披露してみせろ」


 火曜日、5時01分。無茶振りが始まった。ここを乗り越えなければ、二度目の人生はここで頓挫する。だからおれはしっかり訊いておく。


「質問良いですか?」


「なんだ?」


「いまのおれってスライムなんですか?」


「どこからどう見てもスライムだろう」


「分かりました。なら魔術? をお見せしますよ」


 スライムは最弱のモンスター……そんな常識、実は日本でしか通用しないと聞いたことがある。

 たとえばこの身体。とても柔らかく、仮に銃弾で撃たれたとしてもひるまないだろう。

 さらに手の部分を見てみると、スライム特有の液体が溜まっている。これらはあらゆる武器や防具を腐食させるに違いない。もうそう信じ込むしかない。


「もう使ってない武器とかあります? それを腐らせて使用不能にしますよ」


「いまは持っていないのでね。この木の棒で良いだろう」


 老人は木の棒をおれに渡してくる。

 そしておれは木の棒に触れ、じゅ~わ~……とそれを少しずつ溶かしていく。バターでも溶かしているような感覚だ。


「どうです?」


 行けただろうと確信していたので、ドヤ顔かましてやった。


「うーむ……。まあ、ひとまず合格だな」


「どうも」


「ところで主は自分を『おれ』と呼んでいるが……その見た目だと『私』や『あたし』のほうが正しいんじゃないか?」


「へッ?」


 老人は腕を上げ、おれの全貌が見える鏡を作り出した。魔術の国らしい時短行為である。


「見てみろ、いまの自分を」


 紫一色に染まったスライムが人間の形をかろうじて保っている。

 しかし重要なのはそこではない。

 顔に当たる部分だけ妙に精巧に作られているのだ。

 そう、美少女の顔に。


「嘘ッッッッッッッッッッッッだろ!? なんでおれが美少女になってるんだよォ!?」


「意外と鈍感なようだな。大物気質とも言えるが」


 正直、おれはイケメンではなかった。チーズ牛丼が好物な冴えない青年だった。

 しかし鏡が照らし出す真実はおれという絶世の美少女のスライム娘なのだ。

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