004 そんなときだったんだよね
「クール大統領に言わせてみれば、『転生者は転生者同士で殺し合いさせてよかろうもん』とのことですが……どうします?」
なにそのデス・ゲームみたいな話。おれ美少女になれたのに殺し合いするの? 確実に犯されるじゃん……。
「しかしいまどきの転生者にしては珍しいほど欲がない。生かしておくのも一興じゃな」
怖い単語ばかり聴こえるものだから、おれはすっかり押し黙っていた。太陽がこの国ロスト・エンジェルスに光を与える頃、ひとりの転生者の天命も決まりつつある。
「…………。まあ、たしかに無害そうですね。スライムの身体を活かしてできる仕事もあるかもしれないから、生かしておきましょう。お祖父様」
死刑宣告はかろうじてされなかった。胸をなでおろし、スライム娘になったおれは異世界転生からの人生やり直しの第一歩を踏み出そう……としたときであった。
「あ。スライムがいる。乳首ねぶりされるのかな? まあ良いや」
少女はスクールカバンほどのサイズ感のなにかを構え、照準をおれへ合わせる。
耳をわずか通り過ぎる高音が響き、おれの身体に穴が空いた。
「人獣形態かぁ。レールガンで撃ってもくたばらないなんてちょっとショック」
おれが身を潜めてわざわざ夜中草を食べていた理由……。それは、彼女のような怪物狩りに出会わないようにするためだった。
「誰だ? 貴様」
「名乗るほどの者ではないです。まあもっともそっちの名前は知ってるけど」
「転生者にもロスト・エンジェルスの人権が適用されるのよ? 貴方犯罪者になりたいの?」
「うるさいなあ、姉貴。さっきから聞き耳立ててたけど、ソイツまだこの国の市民になってないでしょ? ねえ、スライムさん」
身体の45パーセントほどが消失した。スライムを追加すれば元通りになりそうだが、それでも身体のちょうど右側がそっくり消え去ったのは苦しい。
「……。分かったわよ。この子はまだ市民登録されてない以上、私たちがこの子を守ったら怪物狩り協会に叱られるわ」クラリスはおれに近づき、「というわけで、頑張りなさい。応援くらいはしてあげる」
おれは首をゆっくり縦に振り、クラシック音楽でも聴いているようなリラックスした表情で……叫び散らす!!
「ふざけんじゃねえ!! なんでオマエらレールガンでヒトが撃たれてるのに応戦もしてくれないんだよ!? クソみてえなヤツらだなおい! オマエら転生者の態度がでかいとかなんとか抜かしてたけど、てめェらのほうが腐り果ててるわ!! なあ!?」
「遺言それだけで良い~?」
「良いわけがね──」
見るも無惨語るも無惨。おれは負けたのだ。ただ見た目がすこし違うだけで『怪物』呼ばわりされて、『怪物』が正義の味方によって惨殺される自称勧善懲悪ものの筋書きによって。
「くそ……くそ……死にたくねえよ……」
身体の90パーセントほどが吹き飛ばされ、残るのは頭部だけだった。
そんなときだったんだよね。スライム娘って半端ねえなって思ったのは。
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