第89話

「もしも明里と結婚するとなると、そんなこんなな事がある事を、ちょっと言っておこうと思って………」


 真面目な宮部は、本当に心配してくれている様だ。

 何せ、頼りない佐藤だからかもしれない。


「延登子は自分の様に、明里にも幸せになって欲しいと思って、佐藤君の世話係にしたんだから、その気があるなら幸せにしてやってくれ。何せ此処の上級貴族の身内なんかになったら、いろいろと面倒な事ばかりだからさー」


 と自分の屋敷なのに、トーンを落として言った。


「今上帝はああいうお方だから、今上帝を意のままとしようなどとは、考える者もいないけど、娘を使っての駆け引きみたいなのは、あったって聞いてる。宮中って案外怖い所だから………貴族とは関わらない方がいい」


 ………あーーーだから明里さん?………


 きっとあの延登子さんの事だから違っているだろうけど、佐藤はそう思ってしまった。

 それって願望かもしれない………。


「宮部さん、どうやって延登子さんと、お付き合いできたんす?」


 佐藤の問いに、宮部は唖然とする表情を作った。

 えっ?そこ聞くの変すか?


「佐藤君さ。明里が世話をしてるんだよね?」


「はい」


「二人だけとか、なる時あるよね?」


「そうなんす。そういう時って、マジでどうしていいかわかんないんで………」


「まぁ………初めはそうだけども………佐藤君此処に来てから、随分経つよね?」


「………と思うんすけど、此処ってカレンダーとかないじゃないっすか?」


「ま、まぁ、そうだけれども………大体慣れて来た頃だよね………って事は、まぁ時は経ってるよね?」


「はい………」


 宮部は佐藤をしみじみと見て、考え込む様にした。


「佐藤君は明里の事、どう思ってんの?」


 ん?これって振り出しに戻ってる?戻ってるよな!と宮部は思った。


「超可愛いと思います。け、結婚はまだ俺には早いかもだけど、お付き合いはしてみたいっす」


「お付き合い?」


「あーーデートとか………」


「デートかぁ………そういえば此処って、あんまりデートとかしないな」


「えーーーじゃ、どうやって結婚するんす?」


 佐藤は木製スプーンを、盆の上に置きやって聞いた。


「えーーーと、歌を詠んだりしたラブレターを、意中の女性に送るのが、貴族男子たる公達のアプローチだね」


「歌?カラオケっすか?それとも屋敷の窓の下で、ギターを片手に………」


「いやいや………」


 いつの時代の、なんの映画?ドラマを想像して言っているだ?


「歌といっても、詩というか………和歌みたいな」


「えーーー百人一首の?ちはやふる………しかしらない」

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