縁談
第86話
「天の大神が日本に居座っている限り、丸ごと持って来るっていうのは無しだな」
シェア屋敷の寝殿で、宮部と夕食を取っていると、宮部は深刻な表情を向けて言った。
「マジで?」
佐藤は最近お気に入りの、茶碗蒸しみたいなのを、木製スプーンでつつきながら言った。
この茶碗蒸し擬き……と勝手に佐藤が思っている〝茶碗蒸し〟。佐藤が故郷である日本で、食べていたのとはちょっと違う。見た目は凄く似ていて、丸めで小さ目な瀬戸物風の、蓋付碗に入っているから、まんま茶碗蒸しなんだけど、スプーンを入れると、ほんのちょっと硬い感じがする。その弾力のある上部を、思いっきりこじ開ける覚悟でさすと、フワ〜という感じに、中からスープが染み出して来るから、思わずスープ毎茶碗蒸しよりちょっと硬めな身を掬って、口に入れるとその硬いと思った物が、あ〜ら不思議とお口の中で溶けて行く感じ………そうそう、茶碗蒸しは凄く柔らかなイメージで、口に入れると柔らかな物がお口に残るけど、その逆で茶碗蒸しより硬く感じながら、口に入れると溶けちゃう感じ………。
食レポ下手過ぎるけど………。
聞いたところによると、何とかという爬虫類の卵の、茶碗蒸しバージョンみたいだったけど、その爬虫類は聞いた事がない名前だった。と言っても、此処では日本と違う呼び方とかもありだから、爬虫類と聞いた時点で、深く詮索しないが得策だと、ヘタレな佐藤は知っている。
聞かぬが仏と言う言葉を、しみじみ痛感している佐藤だ。
「でも天の大神って、日本贔屓なんすよね?どうして、丸ごと持ってこれない様な事をするんす?」
「大地の大神を、揶揄ってんのさ」
「えー!揶揄ってる?って………信じられないんすけど」
佐藤がスプーンを、脚付きの盆に叩き置いて言った。
「丸ごとすっぽり持って来れたら、こんなに良い事ないじゃないっすか?」
「ま………楽だけど?」
「………じゃなくて、日本人同士で助け合えるっていうか………」
「大神達がどの様に考えているか?っていうのもあるよなぁ………」
「?????」
「果たして此処に持って来て、今のままの日本として残すのか………?」
真顔を作って再び茶碗蒸しに、スプーンを刺した佐藤を直視する。
「この国と同化させて行くのか?」
「えっ?合併的な?」
「市や県が、合併したりした事あるからな………」
「国と国って、聞かなくないっすか?」
「属国とか植民地的な?」
「えっマジっすか?」
「………そうなっても、おかしくないって事………。今上帝の御心は、計り知れない………」
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