第85話

 言われてみれば確かにそうだが………。面と向かって言われたら、流石にムッとする。佐藤の心中は、きっと読み取られているだろうけど………。


「新たに大地が浄められた其処に、今上帝は日本をお戻しになる。そして日本を大きくなさる算段だ」


「えっ?」


「今上帝は、貪欲な青龍をお抱きだ。此処に日本を持って来て、その手に日本をお持ちとならば、その力をお望みとなり欲しいと思し召す………否その為に、日本を手中に収められるのやもしれぬ………」


「……………」


「神々は、どこの他国にも存在する。そして我らも、姿形名を変えて存在する。大神様や今上帝の様に、考えるものが存在してもおかしくないし、かつてその様にされたお方も存在する。万が一それらが無いとしても、日本の民や生き物達は生き延びる………」


「新しい世界は、日本人の世界になります………」


「…………それが叶わずとも、今より大きな国を広げて行ける。つまり今上帝は、その世界の力を望んでおられるのやもしれぬ………」


「今上帝は、新世界の〝神〟になろうとしているんすか?」


 佐藤が、神妙な表情を作って言った。

 すると皇后は、神々過ぎる笑顔を作った。


「佐藤。そなた実に面白いなぁ」


「へっ?」


 間抜けた顔容を向ける佐藤を見て、皇后は大きく声を上げて高笑いした。


「冗談だ……冗談」


 ………えっ?ええーーー!!!………


「今上帝の青龍の力は、このわたしが抑え込んでおるのだ、其処まで貪欲となれるはずがなかろう?」


「はぁ?マジっすか?」


「………ゆえに、今上帝の愛が不可欠なのだ。他所に、余所見などしてはならぬのだ」


 ………あー?………


 佐藤は、皇后が揶揄っていたのかと、ちょっとムカっとして見せた。


「そうふくれるでない。そなたが、今上帝の青龍について、どうも気になって仕方がないようであるから、わたしが懇切丁寧に教えてやったのだ………どうだ?少し解ったであろう?」


 とか言いながら、笑いが止まらない。

 コレって、ツボにはまったってヤツすか?

 そう思ってムッとしているから、余計に笑いのツボにはまってる………。


 ………ガチでムカつく………


 佐藤は仏頂面を隠さずに、大笑いの皇后の殿舎を後にした。

 此処の人間ではない皇后は、人間である此処の人達より、日本の人間である佐藤と、同じ感覚というか考え方を持っていると思う。だから気安く接してくれるし、可愛がってくれるってヤツだろうが、偶にこうして、物凄〜く揶揄ったりするのだが、なんだかなぁ………。

 それにタメ口OKだからか、佐藤の聞きなれた言葉使いがバシバシ、此処だか神獣言葉だか、変な言い方に混ざっている。


 ………こっちの方が、笑えるんだけど………

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