第82話

「………とろこで皇后様。帝の龍の力というのは、どんなモノなので?」


 佐藤の問いに皇后は、自分の力説したい部分を、佐藤が聞き流している事に気がついた。


 ………まっコイツじゃ仕方ないか………


 お子ちゃま佐藤に、上から目線の皇后。そこはとても寛大にやり過ごす。何と言っても神獣であるから、多少の事はおおらかなご気性だ。ただ、夫の愛情に関するものだけは別であるけども………。


「龍は〝力〟を欲するモノだが、青龍はソレが貪欲だ」


「力っすか?」


「………ゆえに、王族の血筋に誕生する事が多い。時としてその気質を好み、臣下に抱かれて誕生する事があるが、そういう時には乱世を呼ぶと言われている」


「……その龍って、此処の帝にしか抱かれないんすか?」


「否………此処は、大神がおりその下に我らの様な、神獣の一族が存在するゆえ、乱世が起きぬのだが、此処以外の所に誕生致すと其処は乱世となる。特に青龍は、他のより貪欲に力を欲する。その者は覇者となり、近隣の国々を滅ぼし力を蓄えて行く。その器が枯れる迄、ずっとずっと力を喰うて行くのだ」


「マジで?」


「マジである。外界の大陸には、龍が好んで抱かれる者を誕生させる。ゆえに大きな過ちを繰り返してしまうのだ」


「………でも、龍ばかりではないんすよね?」


「龍ばかりではない。ゆえに鳳凰や鸞を抱いた者が、龍を抱いた者の傍におらば、世を平安へと導く事もあるし、違う神獣を抱きし者が傍にあり、覇者を増長させる事もある………」


「神獣と神獣の関わりで、戦いとか起こるのか……」


「………ばかりではない。〝そういう事もある〟という事だ。人間とは摩訶不思議で、善にも悪にもなる物だ。我らが計り知れぬ程に、惨虐であり慈悲深い。ゆえに争いは絶えぬ」


「はぁ………戦争なんて、絶対起こらない世界に、自分は生まれて育って生きて行くって………ずっと思ってたんすけど………此処に来る前から、そーゆーのヤバめになってました………」


 佐藤が感慨深げに言う。

 佐藤だって此処に来て、いろいろ考えてしまった。

 のんびりとゆったりとした此処は、最強の力を保持する青龍を抱きし帝の、独裁的政権の元、不安も心配もない、めちゃくちゃ豊かで平和な生活を送っている。

 そんな国の人々を見て、佐藤は日本の人々を思い出す。

 は戦争も飢餓も無い、ちょっと不安や不満はあるけれど、それでも幸せと言っていい国だが、その国を囲む国々は、かなり危険で危うげだ。

 この丸い球の何処かで、小さな争いが繰り広げられ、その火の粉が飛び火してもおかしくなくて、そして本当に安全を守り続けていかれるのだろうか?

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