第77話

「はい」


 今上帝が脇息に凭れたまま、扇を口元に置いたまま宮部に聞いた。だから宮部は畏まって、今上帝を直視して頷いた。


「………であるか?………して話しは如何なものであった?」


 今上帝は口元へ持って行った扇を、下に下ろしながら宮部と佐藤を見る。


「如何なもの………とは………」


「………なに、長谷部はそなたに、大事な話しは致さなんだか?」


 今上帝が意味有りげに言うから、宮部は真顔を作った。


「………否、聞いておらぬなら………」


「天変地異が、外界で起こる事でございますか?それとも、日本に住む生き物達を、此処に連れて来る事にございますか?」


 宮部が言うと、今上帝は少し口角を上げた。


「そなた達に、新たに役をあてがう事だ」


 今上帝が言うと宮部は


「………ならば伺っております」


 真剣な表情を浮かべて答えた。


「………ならばよい」


「は?」


「そなた達を呼んだは、そんな理由わけであるから、精進してくれよ?」


「………さほどに、深刻となっておるのでございましょうや?」


 余りに宮部が真剣に聞いたから、今上帝は再び口角を緩めた。


「そなたが聞く程に、大層な事ではない。が、そなた、そして工藤、そしてそこの佐藤………この者達を比べれば、そろそろ準備は必要だ」


「………………」


「此度のわたしの決断により、天の大神様は兄国に降臨された」


「日本にですか?」


「そう慌てるでない」


 宮部の慌てぶりに、今上帝は慈しむ様に笑って見せる。


「あのお方は、兄国の近代的文化をお気に入りなのだ」


「へっ?」


 これには、佐藤も一緒に声が出た。


「特にスマホとやらがお気に入りで、天空でも手にしておいでであるとか?固い物でおできの大地の大神様より、兄国の近代的文化を、お気に召しておいでであるが為、国毎丸ごと此処に持って来ようとお考えで、ちょっと融通のお効にならぬ、大地の大神様とは意見が合わぬのだ」


 とか言って、凄く大きな溜め息を吐いた。


「えっ?日本を丸々此処に持って来るって………帝の意見じゃないんすか?」


 佐藤が横から口を挟んだ。


「さすがに、大地の大神様の地に、わたしが勝手を致すわけには参らぬ………が、そんな事など構いなしになされるが、アノ天の大神様であるのだ。そして良い事に、大神様は兄国を非常に………お気に召しておられるのだ」


 今上帝は少し間を置いて


「つまり是が非でも、今のまま此処に持って来ようとの算段である………」


 と、またまた大きく嘆息を吐いた。

 その様子で今上帝の困った感が半端ないと、全く空気の読めない佐藤ですら察する事ができる程だった。

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