第76話

 今上帝は神々しい陽の光を浴びながら、丁重に礼をしながら佐藤に言った。


「はい………」


「太陽は、我らを育む光りである………其は祖神の御心と同じである………」


「……………」


「祖神は、此処には在わされず兄国に在わすが、その御心は兄国同様に、我らを慈しんでくだされている………ゆえにわたしは、なかなか御めもじ頂けぬ祖神に代わり、アレを毎日崇め奉っておるのだ」


「………はぁ……ってか、日本のどこに在わすんす?やっぱ伊勢神宮すか?」


「………そう言われておる様だが、天に在わすのだ」


「天?ああ、天の大神とか太陽神とか言われてるから?」


「そうではない。天空にそれは立派な宮殿を構え、其処に在わすのだ」


「宮殿?」


「………其方達が考える、他国の宮殿の様でもあるし、此処の様な宮殿でもあるというが、さてもわたしは行った事がないからな、如何許りな物であるか知らぬのだが………大神様の申される御様子であらば、他国の宮殿に違いと想像している。ところがその宮殿を、快く思っておられぬお方が、対となられる天の大神様だ」


「えっ?神様達は、天の宮殿においでなんでしょ?」


「ああ……全ての神が天空の宮殿に、在わすという訳ではない。特に殆どの大神様はその宮殿には在わさず、お隠れになられている」


「ええ?大神様って、何処に隠れてるんす?」


「さて?大神様の事は知る術はない………ないが、大地の大神様は此処に在わし、対となる天の大神様は、此処の天空に在わすと言われている」


「天空………?」


 佐藤が天を仰いで言った。


「さよう………天の大神様も地の大神様も、その実体は無いと言われておるから、如何様に在わすのであろうか?」


「実体が無い?大神様すか?」


 遥拝を終えた今上帝の後について、移動しながら佐藤は聞く。

 異世界ぽいというより、能力者ぽい話しだ。


「如何にも………」


「えっ?大地の大神に、会った事あるんすか?」


「お遭いした事はないが、ご教示は頂いておる」


「………ご教示?」


わたしの致すべき事を、お示し頂いておるのだ………」


 今上帝は神祇官の元に向かうべく、御寝所を後にしながら、昇り始めた陽の光を全身に浴びて、その尊い顔容を綻ばせて佐藤を見た。


「その内、其方にも教えてやる」


 佐藤は、太陽の光に照らされ神々しく輝く今上帝を、ほんとうに後光が差しているヤツかと、その時は心底思った………。

 脇息に凭れて、変な笑いを浮かべている、今の今上帝には到底そんな事、思えないけど………。


「宮部。そなたの邸で一献交わし合うたのか?」


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