第75話

 翌日出仕………参内すると、今上帝はとっくに朝の仕事をして、内裏の今上帝のプライベートルームである、昼御座ひのおましで、片肘をつく脇息きょうそくに凭れ掛かる様にして佐藤と宮部を迎えた。


「長谷部は、昨夜また悪酔いを致した様であるな」


 とか言って、大きく溜め息なんか吐いて見せる。


「なぜご存知なんで?」


 まだまだ見習い佐藤は、咄嗟に聞いた。

 すると近くで宮部が、顔を顰めて小さく首を振っている。


 ………マジでムカつく………


「突如として、假を取ったからな」


 ………?……ああ休みね………


 まだまだ初心者マークは取れないが、それでも多少は此処に慣れて来た。

 とは、官人が取れる休暇の事で、大体6日に一回取れる様になっている。

 ………と言っても、太陰暦とかいうものだから、太陽暦とは違いはあるが、週休二日ではないのはちょっと残念だ。

 それより面白いのが、田畑の収穫時期になると、その手伝い要員として休みを与えられて、収穫の手伝いに行かされるらしい。ところが此処は、外界より作物のできる時期が多いから、その休みを交代で取らされて手伝わされるらしいのだが、その〝休み〟の方が、宮中のお仕事よりハードだというから信じられない。だって諸福さん達は、神様の眷族とか眷属神とかが、護ってくれて手伝ってくれるって言ってたから、まさか公務員………それも上級公務員の宮中勤めの官人が、〝休暇〟を取らされて派遣されるなんて………ん?今上帝=神……その手下=官人……眷族って事ですか?とか思っていると


「アレは飲み過ぎると、タチが悪い」


 今上帝は、扇子のちょと大きい版を口元に持って行って笑った。ついでに小さな欠伸………。


「………………」


 そうそう、今上帝は物凄く早く起きて、御先祖である太陽の神様に、朝のご挨拶をする為に身を清めて身仕度を整え、諸々の準備をして太陽が昇って来る頃、この昼御座ひのおましにある祖神遥拝する壇で、朝陽を受けながらご挨拶をする。

 初めて宿直とのいとかいう、夜も今上帝のお世話をする宿直をした翌日、その光景を目撃した佐藤がきっと………


 …………太陽は神様じゃないし………


 とか不敬にも思った事を、その能力で読み取ったのか、ただ素直に顔に出ていたのか………そんな佐藤を見て


「さても太陽神などと人間共は申しておるが、アレは大神ではない」


 と呟かれた。


「はぁ………」


「人間とはより大きな物を、崇めたいのであろうが、残念ながらアレは大神ではない」


「………はい。太陽です」


「………である。しかしながら、この世を育む光りではある」

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