理由

第65話

 だいぶ慣れっこになった、宮部の寝殿の母屋のフローリングに、宮部が下座とか呼ばれる位置の畳に座し、上座とか呼ばれる位置にちょっと年上の、此処では当然被るべき帽子を被った男性が、貴族が着る事になっているという、直衣のうしとかいう服装で畳に座って佐藤を見た。


「君が佐藤君か?」


「は、初めまして………」


 佐藤が会釈すると、長谷部は顔容を崩した。


「いや〜久しぶりだなぁ………この感じ」


「はぃ?」


「いやいや。全然此処の人間ぽくなくて?日本人って感じ?」


 佐藤が空いてる畳の上に座るのを見ながら、長谷部は上機嫌で言った。


「あーーーなんか……なかなか慣れなくて、宮部さんに面倒かけてます………」


 佐藤が宮部の隣にある丸い座布団が置かれている、畳の上に座るのを見ながら


「聞いてる聞いてる。えらく今上帝に、気に入られてるぽいよ?」


 ホクホクした感じで言うから、宮部は少し渋面を作った。


「長谷部さん、甘やかさないでくださいよ!それでなくても、主上に言いたい放題なので、僕なんかハラハラしっぱなしなんですから」


 かなり溜まった物があるんだろう、宮部は先輩で上司の長谷部に、チクる様に言う。


「いやいや、がいいんだろうねぇ………何せ今上帝に忖度無く言える者など、お側には存在しない。しかしながら今上帝は、えらくをお好みゆえ、私も心掛ける様にして来たが、今の地位に慣れてしまうと、どうしても今上帝の御心を読んでしまう様になる………」


「えっ?長谷部さんでもですか?」


「………そりゃ人間だからさぁ……お側に居れば……どうしても……な?」


 ちょっと意味有りに言った。


 …………そういうものか………


 KYな佐藤は、そういったものなのかと、改めて感心する。


「…………で……工藤君が、地方に行った件なんだけど………」


 長谷部は少し前屈みの格好で、身を正して聞き入る宮部を直視した。


「主上はそろそろ本格的に、を起こされるおつもりの様だ」


「事?」


 宮部と佐藤が、異口同音で聞いたから、長谷部はアッという表情を作って、宮部を見続けている。


「あーーー宮部君、此処に呼ばれた理由、言ってなかったかぁ?」


「えっ?呼ばれる理由?」


「………って言っても?私も最近聞いたんだけどさー」


「誰に?」


 仲の良い宮部と佐藤だ。


「主上」


「えー!僕らを呼ぶ理由を、教えてくれたんですか?」


 宮部が、身を乗り出して言った。


「うん………まぁ……」


 もう吃驚だ。

 いくら宮部がそれとなく探りを入れても、上手い事はぐらかされていたのに………。理由があったとは………。


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