第62話
「明日遠国に向けて経つ事となりましたので、ご挨拶に参りました」
「明日経つんすか?」
「はい」
二人は佐藤の棟のフローリングの、丸い座布団に座って頷いた。
「あ!根入さん出世とかして、都勤務になったりしちゃいました?」
「いえいえ………出世はしたのですが、遠国にずっと居ても良いと、帝よりお許しを頂きました」
「マジで?」
「はい………実は来年辺り、そろそろ任期が終える頃でしたが、佐藤殿のお陰で暫く居てよい事に………つきまして、それを調べるにあたり、一月程掛かりまして………」
「ひとつき?」
「はい」
「それゆえに、口裏など合わせてはならぬと、私も止め置かれてまして………国司様のお宅に居候させて頂き、都見物やら有名所の見物に、連れて行って頂いておりました」
諸福さんが、フォッフォッフォッ………と、変な笑いをする。
…………お上りさんの観光三昧だった様だ………
「えっ?その何を調べられるんす?ずっと国司でいられる為に?」
「あーなに、国司様の評判でございますな。今上帝は、聡いお方と評判でございます。国司様が遠国で、民によく思われておらねば、即刻都に呼び帰されます。しかしながら国司様は、かなり民の評判も良く、国の為に益を得ておりますゆえ、ずっと国司として仕える事が許されたのです」
諸福さんが説明した。
つまり根入さんは、評判のいい県知事だから、望むならずっと居てもいいって事になったらしい、たぶん諸福さんとも相性がいいから、二人して阿漕な事をしていないかも調査済みって事か………。
確かに善良な人間達なら、組んで地域を良くする方が、国の為にもなるだろう。
こんな事が通るのも、今上帝の独裁的な力の所為だろう。
だって国司って案外旨い役だから、その役に就きたい官人って多いって聞いたし、偉い人の推薦で就く事が多いから、裏工作も多いって聞いたばかりだ。
「根入さんが良い人だから、残れたんだから、ガメちゃダメっすよ」
「だから、しませんてば」
根入さんは、物凄く力を入れて言ったから三人で笑った。
それから気の利く宮部が、二人を寝殿に招待してくれて、物凄い料理を振舞って遅く迄四人で飲み明かした。
そんなにお酒を飲んだのに、諸福さんと根入さんは、翌日の朝早く遠国に向けて旅立って行った。
…………とは言っても駅路だから、きっと馬のオシッコ限界迄に、遠国の駅に着いている事だろう。
充分に諸福さんと、都とその周りの観光地を遊んで歩いたから、三ヶ月も掛けて行く必要もないし、美味い鰻も食べには行っていない筈だ。
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