第59話

 宮部は肩に手をやり、すっと頭の上に拳を作って見せた。


「それを髻と言って、此所の男子はその髻を見せるのを恥としてる」


「へっ?何で?」


「………さぁ、知らんがそういう風習なんだろう?でそれを隠すのに、冠とか烏帽子とかいう、被り物を被るわけだ」


「なんかダセー」


「僕らに言わせればそうなんだが、郷に入れば郷に従え……僕らが変えられる事じゃない。だけどそういった事に理解できない日本人は、無理に従う事をしなくていいと、今上帝は考えている様で免除されてる。だけど被りたかったら、被ってもいいんだぞ?」


「そういう宮部さんは、被ってないすよね?」


「僕は短髪の方が楽だし、ずっとひっつめてると、ハゲになるって聞いたからさ………」


 宮部は、頭を触りながら言った。

 なるほど………宮部はサラサラな髪で、ちょっと栗色で細そうだ。

 佐藤は直様納得した。

 こーいった事は、意外と男子のお悩みとして多い。大学でも悩んでいるヤツがいた。佐藤みたく髪が多くてボウボウタイプは、憧れの髪の毛なんだが、先を考えるとやっぱり悩むかもしれない。


「どの道官服の色で、日本人だと解るんだから、冠を付ける必要はないだろ?」


「あーーー夏とか蒸すとヤバいっすもんね」


 悪気はないが佐藤が言うから、宮部はちょっとムッとした顔を作った。


「佐藤君が被りたければ、被るといいよ」


「………気が向いたら、そうします」


 またまた宮部は、ムッとした。

 見慣れた屋根付き渡り廊下を歩いて、木戸の外に牛車の乗り口を見つけた。

 その牛車が上手い事、後ろから乗り入れた感じになっていて、すんなり廊下から乗れる様になっている。

 後ろから乗るのって、この為なのか?とか思いながら、まだ不機嫌な宮部の後から乗車した。


「これから、こういった服装で過ごすんすね………」


 着慣れない、長い袖をゆらゆらさせて、諦め感など漂わせて佐藤が言った。


「仕方ないよ。我々が着てた〝洋服〟ってのを、作ってないんだから」


「…………どう考えたって、動き易いのは洋服っすよね?」


「まあ………」


「この袖に、何の利点があるんだろ?」


 手の長さよりずっと長くて、幅も物凄くある。

 女子が成人式に着る振り袖程ではないが、浴衣の袖より全然長くて、そんでもって手の長さより長いから、折り込んで着てる感じだ。

 何か………着物を着た事はない佐藤だが、日本人だから着物のイメージは持ってるし、男子だって成人式に紋付き袴のヤツがいたが、そんなのともちょっと違う。

 えっ?これが本物の着物ってヤツ?

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