第57話

 綺麗な刺繍のカーテンの衝立や、パーテーション、和風な調度品なんかがあるが、それらが根入さん所のとは、見た感じから違うのは、やっぱり根入さんよりもいい待遇を受けているのだろう。

 そんな事を考えていたら、明里さんが白い物を持ってやって来た。


「白張でございます。お召し替えを………」


「あーすんません」


 と手を出すと、明里さんは白張を置くと、佐藤の側に寄ってきて、着ている着物に手を掛けて来た。


「えっ?」


 佐藤が身を引くと


「えっ?」


 という感じで見てくる。


「お召し替えを………」


「はい。簡単に着れそうなので、お手伝いは大丈夫っす」


 佐藤は着物が着れないので、今着ている着物は着せてもらったけど、ガチで恥ずかしいので、明里さんに言った。


 ………ほんとマジでヤバい………


「そうは申されましても………」


「明里さんの、立場というかお仕事だと思うすけど………自分の国………日本では自分でやってたので………また明日着物を着る時よろしくです」


「あーーーでは………」


 明里さんは、上司………主人っていうのだろうか?が言ったから、困惑しながらも、白張を佐藤に渡した。

 佐藤は着ている着物の、丸襟の所にある糸玉みたいな感じのボタンを、不器用ながらも外して上着の着物を脱いだ。


「………ほら、できるしょ?大丈夫なので、明里さんも寝てください」


「………お休みになるまで、何かご用がありましたら………」


「大丈夫ですって。かなり疲れたので、バタンキューですって………」


 佐藤がそう言うから、明里さんは渋々頭を下げて、簾の高級版の外に出て行った。

 ………ホッ……と一安心の佐藤。

 めちゃアイドル顔だし、スレンダーで小柄な感じが超絶好みだ。側に居られたら、ドキドキしちゃって寝るに寝れやしない。

 着慣れない着物を着てるから、かなり手間取ったけど、どうにか脱ぎ終えると白張を着た。

 やっぱり………コイツは簡単に着れる。何だかんだと言ったって、一般人は簡単に着れる物が、一番いいに決まってるし。着心地だってそう悪く無い。


「このゆったり感が、やっぱ就寝には大事な要素だ」


 そんな事を呟きながら、佐藤は天蓋付きベッドに………。

 此処へ来て、ちょっと布団らしい布団だけど、貴族という名の布団にしては………などと思いながら横になって、羊の顔を思い出す間も無く佐藤は深い眠りに就いた。


 駅路を通り馬に揺られ都に着いて、ずっと前に日本からやって来た宮部に会って、それから宮部に連れられて、宮殿の内裏に行って帝に会った。

 超絶可愛い明里さんと、超美人の宮部婦人に会って、ドキドキ………。


 ………なんか此処に居ても、いいかもしれない………

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る