第55話

………おぇ〜!もう何も食えない………


 とか思っていたら、脚付き盆の上の小皿に、雲丹とかいくらとか海老とかを見つけた。それも下に少量の握り飯……白米が見えている。


「これって?」


「日本の寿司だよ」


「ですよねー」


 先程のおぇ〜を忘れて、トットと口に入れている。


………なんてこった!パンナコッタ………


 日本の回転している寿司屋の寿司より、極?獄?鬼?神?


………美味すぎる………


「うっまー!何すかこの美味さ(ハートマーク)」


「美味いだろ?これが天然力つーやつだろうね」


「宮部さんが、作る様にお願いしてくれたんすか?」


 バクバク口に入れながら、佐藤が聞く。

 するとアッと言う間に佐藤の寿司が無くなると、宮部は佐藤の側にいた明里に目配せして、宮部の寿司を乗せた盆を、佐藤の前に運ばせた。


「いや………此処には、僕らが知ってる料理が、多種多様にあるよ。ただ此処の人達はそんな物より、シンプルな味付けが好みらしい」


「シンプル?」


 遠慮ない佐藤が、宮部の寿司まで喰らい付いて聞いた。


「簡単に、塩をまぶしたりかな?」


「あーーー鮑の塩焼きとか、実に美味かった」


「ああ、そうだろう?此処の食材は実に美味いんだ」


 佐藤はモグモグと口を動かしながら、ちょっと納得した。

 そういう事が、神様の賜り物って事なんだろう………。

 例えばソレが大鬼の肉でも、きっと美味いに違いなく、そしてソレを気持ち悪いとか、そんな風に思わずに食べる様になっていくんだろう………。

 宮部との食事は、まだこの世界に慣れない佐藤に気遣ってか、佐藤に馴染みのある食材で作られ、日本食に近い物ばかりで、そして此処の物は新鮮で無添加で天然物だから、物凄く美味しい物ばかりだった。

 ………だからか、佐藤が案外気に入っている、ちょっと色の付いた、堅い感じのご飯ではなくて、白米の握りである寿司が、次々と運ばれて来て佐藤の腹は、はち切れそうになった。


「もう食えません………」


「それは、宜しゅうございました」


 佐藤がポンポコリンになったお腹を、摩りながら言うと、美人妻延登子さんはコロコロと、可笑しそうに笑っている。


………ちょっとハズい………


「………そう言えば宮部さん」


 宮部は根入さん達の様に、酒を飲みながら佐藤を見た。


「この服装………着物?ではなくて、皆んなが着ている様な、甚平みたいな服ってありませんか?」


白張しらばりかなぁ?」


「しらばり?お店の人とか、温泉街では貸し出しされてて………」


「やっぱり白張………と言っても、最近じゃ白ばかりじゃないか?」


「色んな色とか、柄物とか着てますよ。アレ着やすそうだなぁ……とか思って………」

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