第45話
「はぁ………確かに、直接天皇陛下に会えるなんて、日本でもあり得ないす………」
「いや。顔を見て話せるなんていうのは、余程の立場の人間だけなんだ。
原来なら郡司である諸福さんは、帝に会うなんてあり得ない立場なんだけど、〝客人〟をお連れした功により、官位が上がって昇殿を許される。国司である根入さんは、昇殿を許されているかもしれないが、もしそうでなくても諸福さん同様に官位が上がる。二人共次の人事異動では出世すると思うよ」
「えっ?根入さんは、もう少しあそこに居たいそうなので、出世して都勤務になったらどうしよう?」
「ぷっ………そんな官人が居るとはね……」
「帝に会ったら、お願いすると言っていたけど、聞いてもらえます?」
「佐藤君が気に入られたら、人事異動の時に口添えできるよ」
「マジすか?」
「………なんか、すげぇ特別待遇なわけよ」
「まろうどさま」
「いや、日本人が特に………」
「えっ?なぜ?………つーか、マジで帰れないんすか?」
「…………帰れないよ」
宮部は、少し淋しそうに言った。
大きな門を幾度か通って、門番の人に挨拶して門を出ると、牛を繋いだ牛車が待っていた。その牛車の後ろに台を置かれて、宮部に従って乗り込む。
「宮部さんも此処に来た時は、世話係の人とシェアしたんすか?」
「ああ、いろいろと教えてもらったよ。彼は日本の歴史に精通していたから、今じゃ出世して貴族になっている」
「貴族すか?ナイトとか?」
「あーーー貴族と言っても、日本的なヤツだなぁ」
「武士とか?将軍……は暴れん坊か………」
「いや、そういうのとは違う。ただ武士というか、騎士の様な存在はいるんだが、何せこの国は戦争がないからね………」
「全く無いんすか?」
「いや………僕も詳しくは知らないんだが、日本同様にあった事はあるらしい。だから日本と、別の文化を持ったみたいだ」
「………じゃ、戦争のない文化を持ったんすか?」
「まっ、どの道大神が居るから、争い合うとか殺し合うとかが無いんだ。此処に在わす大神は大地の大神だから、大地の穢れという物を嫌う。その穢れが血の穢れとか、死の穢れとか言われているんだが、たぶんそういった事では無い様に思えるんだけど、とにかく大地の穢れという物を嫌う」
「………その穢れって?」
「僕が今上帝の側に居て感じたのは、そういった行為による人間の浅ましい、負の感情じゃないかと思うんだ」
「怨みとか憎しみとか?」
「戦いになると、人間はとことん残虐で冷酷になる」
佐藤は思わず頷いた。
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