第39話

「そこが在るから、来たばかりの俺は、感覚が日本的なんすね………」


 話した内容は、理解する力は佐藤にはあるが、これ以上を考えるつもりは無いらしいと、宮部は悟った。


「………まっ、完全な異世界ではないけど、プチ異世界という事か……」


 どうやら佐藤にとって、〝異世界〟というワードは重要な様だ。

 残念だが、〝異世界転生〟では全く無い。


 そんな事を話しながら歩いていると、大きな建物が幾つか在って、それらは全て平屋だがその建物を、大きな廊下で繋いでいる。

 小学校の、渡り廊下の様な感じ?体育館とか行く時の。そんな感じに幾つもの建物が繋がっている。

 実に面白いし、壮大だ。


「かなり広い敷地っすよね?」


「ああ。驚く程に土地は広いんだ」


「宮中がっすか?」


「………いや、此処がだよ」


「此処?」


「中津国………日本神話の葦原中国を習って、付けられたと言われているんだけど、此処の人達は使わないからね。その中津国なんだが、話しを聞く限りじゃ驚くほどに広いから、土地は使いたい放題なんだ。と言っても、ここでも〝土地神様の許し〟とかが必要らしいんだが………」


「神様の許し……って、なかなか面倒っすねー」


「それがそう、面倒って程じゃない。大神の末裔の帝には、八百万の神々も甘いから、結局土地神様は帝がOKなら許すのさ」


「………じゃ、帝が許せばいい訳だ」


「………ただ、一応〝土地神様の許し〟は必要だ。するとそこの土地は、神によって護られる」


「?????」


「………そんな理由から、土地は全て帝の物=神様の物。勝手に売買はできないし、私物にはならない。そういった事が大半の世界で、それを人々はおかしいとか不満とかを持たずに暮らしている」


「あーーーじゃ、温泉街の温泉場とか、湖の近くに在った食堂とか、店の人の物じゃないんすか?」


「アレらは、帝からの借り物だ。だからといって、家賃とかが発生する訳ではなくて、そこで商売または住む事を許されるんだ。そして代々受け継がれれば、ずっとその一族の物で住んで商売をしてもいいんだが、一族以外の者には譲られないんだ」


「なんか、面倒すね………」


「面倒というか世襲制だから、ひと昔の日本同様に、若者には幅が狭まる世界だ………」


「………はぁ」


 選択する自由を持って育って来た佐藤には、ちょっと理解しがたい事柄だ。

 大きな建物の横を通った時、木製の戸が開いていて中をチラ見すると、食堂の様に土間に椅子テーブルが置かれてあり、宮部みたいな服装の男が数人、忙しそうに働いているのが見えた。

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