都
第30話
「さようでございます。そしてお越し頂いた村には、帝より褒美を賜われるのでございます」
「ご褒美すか?」
「村人全てに、都の絹を頂けるのでございます」
「………都の絹すか?」
佐藤は合点がいかぬと言った、ちょっと渋い顔を作る。
「な、なんという顔容を………都の絹は、皇后様御自らおとりとなった、七色に光る絹の事で、貴族すらさがさに賜る事はないのです。それを賜われるのですから、一族の誉れとなります」
諸福さんが、佐藤を見て言った。
「貴族ですら、喉から手が出る程の代物ですからな、高値で買いたがる貴族は多いのでございますよ?」
「言い値で買うとか、聞き及びますな……」
しみじみと根入さん。
「………じゃ、ガメちゃダメっすよ」
佐藤が言う。
「そんな事は致しませぬ」
意味は解らないものの、何となく言われる事は察しがついたのだろう、根入さんは慌てて言った。
何だかんだと知らない世界に来て(佐藤はそう思っている)、とてもお世話になって気心の知れて来た二人とも、そろそろお別れとなるかもしれない、と思うとちょっと寂しい佐藤だ。
第一都の天子に会ったら、本当に日本に帰れるのだろうか?
そこの処もかなり不安だが、まずは別れる前提で寂しくある。
そして降り出した雨は、集中豪雨の様に凄い音を立てて降っている。
………さすがだ。郷に入っては郷に従えだ………
そんな事を考えながら、余計に寂しさを感じた。
さてそんな寂しさも感じながらも、朝になると使用人が何時もの様に、洗面の仕度をしてやって来た。
………ん?なんだかちょっと、顔色がいい様な?やっぱぐっすり眠れたな………
それから朝食は、鰻の蒲焼きもあって、凄く豪華で美味かった。
食事をいうなら、帰りたくない気持ちだ。
全て天然自然食品で、たぶん無添加無農薬で且つ豪華だ。だからか此処に来てから、花粉症とかのアレルギー反応が無くなっている。
そんな事を考えている内に、湖の周りを戻りながら駅に着いた。
「今日は遊覧船、走ってんすね………」
恨めしげに佐藤が言った。できれば、周っていない所も行ってみたかった。
湖の真ん中を、案外大きな船が浮かんでいる。残念ながら海賊船でも、白鳥でもなかったけど………。
「今日は、晴れの日にございます」
「………晴れの日?」
「良き日と、いう事でございます」
「ああ………占いっすね?」
食事処兼宿泊施設で、朝貼り紙を見たが、 のたうち回った字というか、お爺さんの達筆的な字で、何て書いてあるのかよく分からなかった。
ただ〝晴れ〟という字は読めたから、今日は晴れなのかと理解した。
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