第29話

「えっあそこの?」


「ええ。今日は水難の日ですからね。こういう日は、早くに行って漁をする事を許されるんですよ。その日獲れた分だけが、お赦し頂いた分なので、それ以上は漁をしません」


「………水難の日とか……占いで決めるんすか?」


「ええ。これから大雨が降りますからね、そういう日は、多く収穫できるんです………たぶん明日は、そんなに獲れないでしょう?鰻は泥を吐かせるので、時間が掛かるんですが、他国では養殖という物があるそうですが、此処ではそういう物はありません」


「………じゃ、高いんじゃないすか?特に鰻なんて……」


「やはりお赦し頂ける時期以外は、少し高くなりますが、此処は他の食材も豊富なので、人々はその時期の物を美味しく食べますから、時期によってお出しする物が違うです」


「………………」


「そうそう、蛇の蒲焼きもありますよ」


 店員さんは、あっけらかんと笑って言った。


 ………そうだった、此処は許された物は、なんでも食う世界だった………


 一瞬旨味が薄れたが、直ぐに気を取り直して美味しく頂いた。

 因みに使用人達は、ひつまぶしみたいな物を食べていた。

 今日は水難の日で、これから大雨が降ってくるそうで、残念ながら遊覧船に乗る事も出来ずに、ちょっと湖を回った所に、先程より少し大きな建物が在って、そこに今夜は泊まる事になった。

 どうやら………と言っても佐藤は、温泉街と湖の周りしか知らないけれど、この二つの街を見るからに、食事処と宿泊施設は一体化している様だ。

 さっき鰻丼を食べた所にも、同じ作りの建物が在って、そこがどうやら宿泊施設だった様だし、大きな建物は日本の家屋的な、旅館に似た作りになっている。吃驚したのは、襖とか障子とかで仕切りとしていて、これで畳の部屋なら旅館なのに………。

 残念ながらフローリングに、数枚の畳と薄べったい布団だ。

 今夜は諸福さんと根入さんと佐藤と、使用人達の部屋は別で、夕食とか就寝のお世話をしてくれたら、使用人達はさっさと別部屋に行ってしまった。

 まっ、主人と同室だと、ゆっくりできないから、今夜は皆んなのんびりしているだろうなぁ………。


「明日は、都でございますなぁ」


 根入さんがしみじみと言うと、諸福さんが


「参内するのは、初でございます」


 と言った。


「さようか?」


「興奮して眠れません。これも客人様であられる、佐藤様のお陰でございます……」


「えっ俺?」


「客人様をお連れする場合、保護した郡司とそれを受けた国司が、共に連れ行くのが……」


「マニュアルすね?」

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